日本財団 図書館


それから、3番目のきっかけは、1997年7月からタイを発端にしまして、東アジア危機が発生しましたけれども、その危機が発生して以来、IMFの体制に対する批判というのが非常に強まりました。それとともに内部でも、外部でもIMFのプログラムあるいは体制についてかなり議論がされるようになりまして、学者の間でもいろいろな意見が出ております。そういったものを、私なりにまずアジアの危機というのがどのような原因で起こり、どのような問題があるのかということを理解し、それとともに、そういったさまざまな議論をまとめたいと思ったのが、本を書くことになった3つ目の動機です。

以上のような動機からこの本を書いたわけですが、第1部のタイトルは「東アジアの経済・金融発生メカニズム」と題しまして、ここではまず第1章で、危機前の東アジア地域9カ国に焦点をあてまして、これらの国の経済・金融面の構造、その特徴というものを説明しております。その後に、1990年代に入ってから、発展途上・新興市場諸国に多額の国際資本が流入、特に民間部門に流入するようになりましたけれども、そういった多額の国際資本が流入してきたときに、それらの国の政府はどういう対策を採用しているのか、私が考えられる限りの政策を列挙しまして、それぞれの政策の長所と短所を分析しました。これが第2章です。

それから、第3章では、皆さんもご存じだと思いますが、アジアの危機の発生要因をマクロ経済的な側面、国際貿易、実質為替レートの側面、それから金融部門の構造的側面から分析しています。第4章では、危機の発生メカニズムに関して2つの大きな議論、クルーグマンとオブストフェルドの議論がありますが、その紹介とともに、通常危機が発生する前に先行指標といわれるリーディング・インジケーターといわれるようなマクロ経済指標があるのではないか。例えば、危機が発生する前に実質為替レートが増価しているとか、財政赤字が拡大しているとか、そのような何らかのリーディング・インジケーターを見つけることができるのではないかというテーマに関して一連の研究があります。そういったものを展望し、かつそういったリーディング・インジケーターがある程度東アジア危機に当てはまるのかどうかというようなことを議論しています。

第5章では、基本的には東アジアの危機というのは、マクロ、実質為替レート、金融構造の面で幾つかの問題があったのですが、そういった問題があったにもかかわらず、必ずしも市場の参加者によって危機が予測されていなかったわけです。そこで、危機の発生が予測されていなかった要因がどこにあったのだろうか、といったようなことを検討しています。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION