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第2部 英国の高齢者対策の現状

 

1 英国式システムの構築と変容

 

◆福祉国家モデルの構築

英国で現代的な意味での高齢者対策が始まるのは20世紀初めである。その先がけとなったのが1908年に開始された年金制度であり、さらに1911年には国民保険制度も導入されている。そして第二次世界大戦後に本格的な福祉制度の構築が始まり、1946年国民保険法(年金などの現金給付の導入)、1948年NHS法(国営の医療サービスの開始)、1948年国民扶助法(施設ケアなどの開始)などが制定された。さらに1962年国民扶助(修正)法で配食サービスやデイセンターなどが始まり、1968年医療サービス・公衆衛生法で高齢者のためのホームヘルプや訪問サービス、洗濯サービス、情報提供、住宅改造が可能となり、加えてNPOと協力する権限が地方自治体に与えられている。そして1970年代初めの自治体再編時に地方自治体に「社会サービス部」が設置され、別々に実践されていた児童福祉、障害者福祉、そして高齢者福祉が一体化されて、ここに「揺りかごから墓場まで」の福祉体制が確立された6)

 

◆福祉ミックスへの変容

こうして戦後から1970年代にかけて高齢者への公共サービスの内容が少しづつ整備されてきたわけだが、当時はまだ児童や家族の福祉が主要テーマで、高齢者福祉の優先順位は低かった。しかし、1970年代に政府の財政が悪化し、また高齢化率も徐々に高まったことで、主要な政策課題の一つとして取り上げられるようになった。1979年にサッチャー政権が誕生してからは、国民福祉における国の役割が見直され、個人の責任と民間セクター(NPOと民間営利業者)の役割が強調されるようになる。中でも1990年NHS・コミュニティケア法で医療分野に内部市場が導入され、対人社会サービスでも民間サービスをできるだけ購入することが義務づけられた。そして医療および対人社会サービスの内部は「サービス購入」と「サービス提供」の2つの機能に分割された。自治体運営のホームヘルプや入居施設が民間サービスとの比較競争の対象となり、医療面でも一般医が予算をもち、民営化された病院トラストなどからサービスを購入するというシステムに変わった7)

 

 

 

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