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エッセイ 老いのつぶやき・胸の内 本間郁子

 

特別義護老人ホーム編 12]

老いる孤独と悲しみに気が付いて

 

「叔母が特養ホームに入居して1年めの春、年中行事の花見会に参加して、お弁当を食べている時、食べ物をのどに詰まらせ窒息死しました。74歳の生涯でした」と手紙ははじまっていた。

身元引受人として叔母の世話をしていた男性からの手紙である。叔母は、特養ホームに入居するまでの6年間、他の施設で生活していた。夫と死別後、遺族年金で一人つつましく暮らしていたが、ある宗教団体に預金と家屋財産をだまし取られたり、保険外交員に支払い困難な保険契約をさせられたりのトラブルが起き、一人暮らしが不安になって施設に入った。

施設では生活の不安こそなかったが、叔母のわがままな性格もあって他の入居者や職員とのトラブルが絶えなかった。男性は、施設から何度も呼び出され、職員から激しく叱責された。当時、男性のほうにも80歳を超える痴呆の母親がいて介護で大変だった。叔母の「退居」や「引き取り」を恐れて、言いたいことも言えず黙って耐えていた。

叱責の理由は、「協調性がなく、共同生活ができない」「わがままで、言うことを聞かない」「喫煙の習慣はやめさせてほしい」「朝からハーモニカを吹くのをやめさせてほしい」「断りもなく、敷地外へ散歩に出るのをやめさせてほしい」など。時には、「家に連れ帰って謹慎させてください」と厳しく言われることもあった。衝撃を受けたのは、「精神病院で診察を受け、診断書を提出しなさい」と叔母を前に冷たく命令され、屈辱感を味わった。

 

 

 

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