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また、父親を亡くした後、「彼女の手となり足となろう」と結ばれた劇団員の夫・古賀萬之助さんを、不慮の事故で失うといったつらい悲しみも乗り越えての活動でもあった。

「父を、そして主人を亡くした時も、らくりん座があったからこそ、張り合いを失わずに生きてこられたように思います。よく、人からは"半世紀近くもひとつの仕事を継続して行うなんて、すごいことだ"と言われるんですが、自分としてはあっという間だったように思いますね。昔からよく言うじゃないですか、夢中で生きてきた年月は短く感じるものだと」

恐らく、浅野さんは、父が描いた夢の灯を消さぬよう、その瞬間、その瞬間を精一杯生きてきたに違いない。

そして、継続はまさに力なり、である。年月を経るとともに、『らくりん座』の認知度は高まっていき、やがて、県教育委員会の依頼による僻地の学校への巡回公演や、県の文化行政・文化的催しなどへの協力の依頼も入るようになった。また、五九年より毎年夏に一般県民を対象に、より広い範囲の人々に演劇体験の機会を提供するために開催されるようになった道場主催のドラマスクールも、第二回目からは、県教育委員会との共催事業として行われることとなった。

独自に地歩を固めてきた『らくりん座』の活動にわずかずつ、行政の援助の手が差し伸べられるようになったことは、取りも直さず、『らくりん座』の活動が、学校教育や人間教育の上に果たす役割を、県や自治体などが認めてきたことの証(あかし)でもあろう。

「最近では警察からの防犯演劇の指導や、新任の学校の先生に話をしてほしいと頼まれるなど、演出・指導・講師派遣の機会も増えているんですよ。そういう意味では、"演劇を通して人間教育をしたい"と望んだ父の所期の目的は、ようやく達成されつつあるなと感じます」

 

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毎年、夏休みには小中学生のためのドラマスクールも開催される。これは演劇を通して自分を見つめ直そうという2泊3日の指導講座である。

 

 

 

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