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教育演劇の実践・普及をめざして劇団を創設

 

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自然の中に作られた屋外ステージ

 

そもそも『らくりん座』は、浅野さんの父・故浅野歳郎さんが創設した劇団。

「父は若い時から演劇を志していて、帝国劇場専属文芸座に所属したりもしたんですが、やがて、演劇を通して人間教育をしたいという希望を持つようになりましてね。でも、消費文化の中では本物の芸術は育ちにくいと考えて、都会を離れて自然の中、教育演劇の実践・普及を深めるための新しい村をつくろうと、昭和二〇年の終戦と同時にこの地にやって来たんです」

当初はくぬぎ林だけで、どこからどこまでが境界線かもわからない状況だったのを三年ほどかけて開墾し、二五年に『日本教育演劇道場』を設立。ここで演劇指導を行う一方、教育演劇専門家を志望する青年たちを選考し、二七年に『らくりん座』を旗揚げ。県下小中学校への巡回演劇公演をはじめたのだという。

「教えるということは、限られた人数にしかできないことなので、それよりも演劇を一人でも多くの子供たちに見てもらったほうがいいのではと、劇団を作ったんです。今でこそ、各地にホールなどもできましたが、当時は何もありませんでしたでしょ。ですから、多くの子供たちに見せようと思ったら、学校が一番だということで、演劇教室という形をとったんです」

初めはなかなか理解されなかった演劇教室も、一校一校に出向いて先生方に『らくりん座』の活動の意義を理解してもらうという歳郎氏の地道な努力と、上演校での子供たちの熱狂的な支持によって、翌年にはすでに県内一一五校での公演を実現。三一年には広島県尾道市より招へいされ、県外巡演もはじまった。

「結成当時は、自転車、リヤカーで学校を回ったんですよ。講堂がなくて、教室をぶち抜いて、教壇や机を並べて舞台を作り、その上で芝居をして。何も娯楽がない時代でしたから、子供たちはそれこそ目を輝かせて、食い入るように、見てくれたものでした」

 

 

 

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