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2 遺言以外で同じ目的を達する方法はあるのか

 

遺言は、先ほど述べた理由から厳格な方式が要件とされていますが、それ以外の法律行為は方式は自由というのが原則です。そこで、遺言と同じく本人の死亡によって効力が生じる法律行為で、遺言のような厳格な方式が要求されていないものはないかと探すと、死因贈与契約があります。

死因贈与契約というのは、贈与者が受贈者に対し自分が死亡したらこれこれの財産を差し上げますと約束し、受贈者がいただきますと受諾することによって成立する契約で、民法(五五四条)に規定されています。

契約ですから、相手の承諾(受諾)が必要なので、財産を残してやることは死ぬまでは黙っていたいという場合には利用できません。これが単独行為である遺言との相違です。

死因贈与にも相続税法が適用されますので(一条)、基礎控除や税率などは相続の場合と同じですが、財産の中に不動産がある場合、その登記に必要な登録免許税が割高になっています。しかし、贈与税率に比較してはるかに低い相続税率が適用されるということは、受贈者にとって大変有利なことです。

死因贈与契約については、遺言のような厳格な方式は必要がなく、きちんとした判断能力があって、誰に何を譲るか、譲られるかという贈与と受贈の意思表示さえ明確であれば有効です。筆談でも手話通訳でも構いません。代理人によっても作成できます。ただ、書面によらない贈与は双方がいつでも取り消せるので、書面によるのが一般です。

書面は当事者間の私的な契約書でもできますし、もちろん公正証書によってもできます。

公正証書による場合、本人が公証役場に来られないときは公証人が病院なり自宅なりに行って、その場で作成します、本人が署名できないときは、公証人が本人に代わって署名できるという公証人法の規定があるので、その点は問題はありません。

問題は、特にケース1の質問のような場合、公証人が本人の意思を確実に理解できるかの点ですが、まず本人の意思を代弁できる人に公証役場に来てもらい、本人の能力や意思表示の方法などについて十分に打ち合わせをした上で臨めば大丈夫だと思われます。

一番問題となるのは、どういう状況の下でそのような死因贈与契約がなされたか、その証拠保全の点でしょう。

 

 

 

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