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[3] この規定では、口がきけない人は「口授」ができず、耳の聞こえない人は、公証人が「読み聞かせて」も聞こえないので、いずれも遺言公正証書を作成することは不可能ということになります。聴覚・言語機能障害者(聴覚と言語機能の一方または双方に障害がある人で、先天性・後天性の関係なし)は、このような民法の定めるハードルを越えることができないために遺言公正証書は作成できないということになります。

[4] そこで結論ですが、質問の1と3は、口授という要件を満たすことができないために遺言公正証書の作成は不可能だが、2は、意思伝達装置という補助具を使っても本人が公証人に対して直接口頭で陳述したと見なし得るので、口授の要件を満たし、よって作成は可能だと解釈できます。肉声である必要はないと思います。

いずれにせよ、民法のこの規定は聴覚・言語機能障害者を公正証書遺言から締め出すものであり、不当な差別だとの強い批判が以前からありました。そこで議論を重ねた末、右の民法第九六九条の規定の次に、第九六九条の二という規定を新設し、いわば風穴を開けたのです。

この新設規定によると、口のきけない人については「遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、または自書して、口授に代え」ることができ、耳が聞こえない人については「筆記した内容を通訳人により遺言者または証人に伝えて」読み聞かせに代えることができることになります。通訳は、手話通訳が普通でしょう。都道府県に「手話通訳派遣機関」があるので、通訳が必要なときは、そこから派遣してもらえると思います。

それでは、この改正法(新設第九六九条の二)によれば質問事項はすべて解決できるかという問題になりますが、ケース1では、通訳になじまず、また、自書もできないので不可能、ケース2は改正法によらなくても可能、ケース3の場合は自書ができないので不可能という結論になろうかと考えます。

改正法が障害者についてのすべての不平等を是正するものでないことは明らかです。

自筆証書遺言よりも公正証書遺言のほうが安全・確実なので、それが不可能というのは人権にかかわる問題です。技術的なむずかしい問題はありますが、今後の更なる改正が望まれます。

 

 

 

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