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当事者が合意し、公証人もきちんと理解した上で作成された死因贈与契約公正証書でも、その贈与契約に不服な者は「贈与者本人はそんな契約内容に沿う意思表示ができるはずはない」と主張して公正証書の成立過程や内容を争うかもしれません。そのような主張が出てきても排斥できるような手段を講じておくことが必要で、証拠保全とはそういう意味です。いくつかの方法が考えられます。

1]立会人を関与させ、公正証書の作成状況を目撃してもらい、公正証書にその立会人の住所・氏名を記載し、署名・捺印してもらうこと(この人に後で証人になってもらう)。

2]その立会人に自分が関与した公正証書の作成状況について詳細な供述書を書いてもらい、それを公証人の面前で宣誓の上読み上げて公証人に認証してもらうこと(この宣誓供述書という書面が裁判では有力な武器になる)。

3]少し専門的になりますが、事実実験公正証書という書面を公証人に作成してもらい、死因贈与契約公正証書が作成された状況を明確にし、当事者、特に贈与者がその限られた表現方法によってもきちんと自分の意思を表現して契約が締結され、公正証書が作成されたことを明らかにしておくこと(この事実実験公正証書は裁判で不動の証拠となる)。

 

3 結論

 

質問のケース1と3の場合は遺言公正証書の作成は不可能だが、ケース2の場合は可能であり、改正法によっても同じ結論になる。しかし、死因贈与契約であれば、質問のケース1ないし3の場合いずれも可能である、と考えます。最後に、こうした問題について考えるとき、司法と立法の境界線をきちんと理解しておくことが必要です。法の解釈・適用は司法の問題、法の制定・改廃は立法の問題です。合理的な範囲を越えて法を拡大解釈、類推解釈することは、法の存在しないところに法を出現させることになり、司法権が立法権を侵害し、三権分立に反することになるのです。解釈上不可能だとすることに対して、直ちに人権侵害だと叫ぶのは短絡的にすぎるのです。司法には合理的に解釈可能な範囲を超えて法を適用できないという制約があることを理解してほしいと思います。

なお、以上は私個人の解釈であり、日本公証人連合会としての見解ではないことをお断りしておきます。

 

 

 

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