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A これらの質問に対しては、まず改正(本年一月八日)前の民法の立場から見て可能と解釈できるかどうか、次に、改正後の民法、つまり現行民法ではどうか、そしていずれでも不可能とした場合、遺言以外で同じような目的を達成できる方法はないかどうか、という段階に分けて考えてみることにします。

 

1 遺言公正証書の作成は可能か

1と3については不可能、2については可能と考えます。

 

[1] 民法は、遺言の方式について非常に厳格な要件を規定しており、その要件を一つでも欠けると無効という立場を取っています。せっかく心を込めて書き残した遺言書(自筆証書遺言)が法律(民法九六八条)の要件に合致せず、たとえば日付がないとか、加除訂正が法定の方式に合っていないなどの理由で無効とされることがしばしばあります。

なぜ、こうした厳格主義、形式主義になっているかというと、遺言という法律行為(意思表示によって権利を発生・変更・消滅させる行為)の性格によるのです。

遺言は本人の死亡によって効力が発生します。裏を返せば、遺言が効力を発生したときには本人はもうこの世にはいないわけですから、本人の意思は、もはや遺言でしか確定することができません。それは違うでしょう、誰かにそそのかされてそんな遺言をさせられたに違いありません、などと利害関係者が言い張っても、本人の真意を確かめるすべはないのです。そこで、遺言制度を定めている近代諸国では、どこでも厳格な方式を定め、本人の意思を「二義を許さず、一義的・明確に」、つまり他の解釈が成り立つ余地がないほどに明確にさせて紛争を防止しようとしているわけです。

[2] 公正証書遺言の方式は改正前の民法(第九六九条)では、「公証人が、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせること」とされており、字句の変更はありますが、現行法でも基本的に変わりはありません。

「口授」というのは、口頭で陳述すること、つまり本人が声を出して述べることをいいます。筆談や手話は口授に当たらないというのが通説です。口授は本人が公証人に対して直接するものですから、本人がいくら重症だからといっても、近親者から伝達された遺言は口授の要件を欠いているので無効というのが判例の立場です。

公証人は、この口授の内容を「筆記」し、つまり文書にまとめ、その内容を遺言者本人と証人に「読み聞かせること」になります。

 

 

 

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