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介護体験導入の背景は?わずか1か月足らずのスピード法案

 

私は今年教員二五年目を迎えた。教員になりたくて大学に進学し、中学と高校の教員免許状を取得した。運よく採用試験に合格し夢が実現した。最初に赴任した定時制高校では中学を卒業したばかりの生徒から、自分の父親と同じ世代までさまざまな生徒がいた。極端に学力の低い生徒や自閉症気味の生徒、事件を起こして転校してきた生徒もいた。力不足で悩んだりもしたが、先輩の先生方のアドバイスのお陰でやり甲斐を感じて仕事をしていたのを思い出す。大学時代に介護などの体験はない。それに相当するものとすれば、子供のころのさまざまな体験と大学まで続けたバレーボール部での生活だろうか。

最近は少子化で教員の採用も少なく、教員になるのは大変である。ところが、教育現場では児童・生徒の多様化が問題になり、いじめ、不登校、学級崩壊と、次々に問題が噴出している。教員自身も兄弟姉妹が少なく、異世代との付き合いに慣れていない現実がある。やっとの思いで夢を実現させたのに、児童や生徒の対応に悩み苦しんでいる教員も多い。そんな状況の中で「介護等体験特例法」は成立した。

この法律は一九九七年五月二三日に議員立法として提案され、翌六月一一日に成立し、六月一八日に公布される(一九九八年四月一日施行)という早業であった。与野党の垣根を超えて全会派が賛成したその行動は、今の教育現場に対する深刻な認識の表れでもあるのだろう。

国会では発議者を代表して田中真紀子議員が「介護体験などを通じて人の心の痛みやそれぞれが持つ多様な能力、個性を理解することができる。その体験を教育現場で生かしていくことで人間性豊かな人づくりにつなげてほしい」といった趣旨で、立法の必要性を訴えた。

具体的にはこの体験を通して、人として生きる基盤である「命の尊さ」を知り「人権感覚」を養うことと、教員の仕事に欠かせない「人間理解」「コミュニケーション」能力を磨くことが期待される。文部省教職員課免許係の平野誠係長は、将来教員になる学生に「弱者をいたわる気持ちを育んでほしい」と期待する。

 

 

 

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