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付け加えるならば、福祉改革が行われる前の「公」が積極的にサービスを充実させてきたことから、「公」に対する市民の信頼は厚い。非営利部門と中央および地方政府の関係は友好的で、協働のための土台となっている。

翻って日本を見てみよう。日本は今後増える介護需要への処方箋として、介護保険という仕組みを選んだ。介護保険は、日本版「福祉自由化」であり、欧州福祉国家の現状を踏まえた上で日本での自由化議論を見ると、「公」「民」が協働するための前提に関する議論が見過ごされていることに気付く。

特に今、最も欠けているのは、介護保険の枠からはずれる層や、将来要支援・要介護となる確率の高い高齢者を支える役割だ。特に、初期の痴呆や、独居の高齢者を支える予防策が講じられなければ、重度の要介護者を増やす結果となり、国の負担は倍加する。行政はサービスを受けることができない層、そして潜在的なリスクを抱えた層に対して、「横出し・上乗せサービス」と共に、もう一つ「予防」という点に重点を置いたサービスの枠組みづくりを行う大きな責任がある。

その担い手こそNPO、ボランティアである。住民が積極的に日常生活の支援や心の交流など精神面での「予防活動」に関与するための受け皿として、草の根の活動組織を支援する具体的な方策を示すべきだ。

福祉の自由化は時代の必然だろう。しかし、公と住民が参加する非営利部門の協働はそのために不可欠である。責任のなすり合いはやめ、安価な労働力としてNPOを捉えずに「公」とNPOそして営利企業も含めた「民」の責任領域をきっちりと分ける。そしてそれらの協働を機能させる。それが老後に不安を持つ日本の国民への明るい希望につながる。

「公」の役割は変わった。「民」もまた、新たな役割を担った。二〇〇〇年四月、いよいよ新たな時代の幕が開く。

 

新名正弥(しんめいまさや)

 

1966年東京生まれ。95年フィンランド国立タンペレ大学社会政策・社会事業学部修士課程修了。社会科学修士。現在、東京都老人総合研究所政策科学部門に勤務、専門分野は社会政策。

 

 

 

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