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1994年に、特養ホームの自己負担金が改正され低所得者層に負担が大きくなった。それだけならまだいいが老人医療費の負担も重なった。この改正で、特養ホームに入居している約7割のお年寄りが負担増になったのである。改正される前までのTさんは、たばこを好きなとき好きなだけ楽しみ、酒も1か月に小瓶を1本買って時々晩酌していた。それが、Tさんのささやかな楽しみだった。

ホームの職員の話によると、買物に出かける時、道路に落ちているビンのふたがお金に見えるのか拾って、よく見てまたポイッと捨てる。月2回ボランティアの運営するホーム喫茶の時、世話好きなTさんはいつも痴呆の人を誘って連れて行ってくれる。飲み物100円、お菓子100円だが、お金を痴呆の人の財布から出してしまう。家族の方もそれを知っており、大目に見てくれているようだという。前はこんなことはなかった、見ているのもつらいと話す。生活保護者は月額1万4000円のお小遣いがもらえる。軍人恩給よりもずっと多いのはおかしいよとTさんは何度も何度もくり返し言った。この言葉が私の胸に突き刺さったままだ。

 

 

 

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