日本財団 図書館


百人一首が好きで、ホームでは春夏秋冬に百人一首大会を行った。もちろん、Kさんが圧倒的に強かった。上の句を半分読んだところでカードを押さえる速さだった。読むのは私、そのために大会の2日前には図書館からビデオを借りてきて読み方の練習をした。しかし、Kさんがだんだん座ることができなくなったため、大会は1回くらいに減っていった。その代わり、私は、Kさんのベッドのそばに行き2人で百人一首遊びをした。私が上の句を本を見ながら読むと、Kさんが下の句を言う。全首を見事に暗記していた。彼女は、気丈で自分の考えをしっかり持ち職員の介護や施設運営のあり方にもはっきり意見を言った。新聞を購読し社会の動きもよく知っていた。唯一寮母を困らせていたのは、お風呂が大嫌いで年2回くらいしか入ってくれないこと。何とか入ってもらおうと説得する寮母に、「あの黄色い服着た女が私を無理やり引っ張っていこうとする、虐待だっ」と叫び、若い寮母が涙を流してKさんの部屋から出てくるのを見たこともあった。

しかし、彼女は自分の人生を最期まで責任を持って生きた人だった。死後の葬儀や遺骨を引き受ける会社と生前契約しており、Kさんの遺骨は遺言通り8月20日に相模湾沖に撒かれた。また、公正証書遺言により、残ったお金はお世話になったホームに残すということがきちんと書かれていた。自分に責任を持って生きるということを教えてくれたKさん、ありがとう。

 

 

 

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