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考えただけでもゾッとする。そして何よりも、司法の不正義は国家の不正義。これは国際社会の一員である日本の「人権感覚」が問われる問題でもある。

「だからこそ、プロの法廷通訳人を養成することが急務なんです。アメリカでは一九七八年に“法廷通訳人法”という法律ができたことにより、通訳人の倫理規定から資格試験制度までが整備され、今では、法廷通訳は一つの職業として確立していますが、日本では、いまだに専門的な教育を受ける場すらほとんどないのが実情。つまり、通訳人個人の資質だけが頼りという状況なんです」

助教授を務める聖和大学の研究室で、外国人裁判の現状と課題について熱弁を振るう長尾さん。大学では週八コマの授業を持ち、さらには日本司法通訳人協会の会長として、法廷通訳の研修システムづくりにも励む日々は、恐らく、目が回るほどの忙しさに違いない。だが、長尾さんの表情には疲れの色などみじんもなく、むしろ、生き生きと輝いてさえいた。

 

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長尾さんが教鞭を執っている聖和大学。

3年前に人文学部が新設されるに当たって、長年の法廷通訳人としての活躍が認められ、助教授として招かれた。

 

専業主婦から法廷通訳の世界へ

 

長尾さんは岡山生まれの広島育ち。小学校四〜六年の三年間を父親の仕事の関係でアメリカで過ごしたという帰国子女のはしりで、中学からは一〇年間一貫教育の広島女学院で良妻賢母教育を受けた。そして大学卒業後、すぐに結婚。一女をもうけ、専業主婦として平々凡々な日々を過ごしていた。そんな長尾さんに転機が訪れたのは、子供の幼稚園入学。多少、時間的な余裕ができたこともあって、自分のこれからの人生について考えはじめたのだという。

 

 

 

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