ひとつひとつの積み重ねが大きな人生の転機を生むことを示したい
自分の持っている才能を生かして、何らかの形で社会とかかわりを持ちたい。そんな思いから自分磨きをはじめて法廷通訳人となり、現在は日本司法通訳人協会の会長として、外国人裁判の通訳の充実に取り組む長尾ひろみさん。また、聖和大学(兵庫県・西宮市)の助教授としては、通訳を志す学生たちに裁判での体験も伝えている。もとは仕事ひとつしたことのない“箱入り”の専業主帰だったという彼女が、自らの人生を切り開いてやりがいのある仕事を得たその裏には、目の前の問題に常に全力投球であたるという真摯(しんし)な姿勢があった。
最近、街で外国人を見かける機会は格段に増えた。日本もずい分、国際化したものだと感心するばかり、それに伴って、外国人による犯罪も激増しているという。
「この一〇年で、外国人による犯罪件数は四倍近くも増えており、被告に通訳が付いた一審裁判は、九七年には七千件余りにも上りました。でも、十分な通訳が付いたのは、そのうちの何割あったことか。もちろん、罪を犯したのであれば、裁かなければなりません。でも、罪を犯したのかどうかを審議する場で、きちんとした通訳人が付かなければ、被告は自分を弁護することもできないし、その結果、冤罪を招く恐れすらあるんです」
もしも、自分が言葉のわからない外国で身に覚えもないのに被告席に座る羽目になり、そんな憂き目に遭ったとしたら……。