日本財団 図書館


震災後の神戸を訪れ「何かしなければ」との思いに駆られた

 

『人人(にんじん)』の設立は一九九六年の八月のことだが、その約一年半前に発生した阪神淡路大震災がきっかけとなって、植野さんはボランティア活動に目覚め、そして団体を設立するまでに至ったという。

「昔、父が自宅をお年寄りの社交場として開放していたこともあって、もともと、福祉に対する関心は強く、いつかは宅老所を自分でやりたいという思いを漠然と抱いていたんですが、なかなか行動に移せずにいたんです。ところがあの震災が起こりましたでしょ。それで居ても立ってもいられなくなって、何かお手伝いできることがあればと、二月に長田区を訪れたところ、そこは一面の焼け野原。言葉では言い尽くせないほどのショックを受けました」

植野さんがボランティアに入った区内の中学校は被災者であふれ、一人の居場所はダンボールー枚ほどのスペースだけ。「これが同じ日本なのか」と、わが目を疑うような悲惨な光景がそこにはあったという。だが、そんな生活を送っているというのに、誰もがとても明る<、前向きなことに大きな感動を覚えたと、植野さんは当時を振り返る。

「若いお母さんたちによるお弁当を作るグループなども自主的に結成されていたりと、みんなが自分のできることをし、そして助け合いながら生活をしていました。こうした姿を目の当たりにして、どんなに大変な状況でも、支え合っていけば、人は生きていけるのだということを実感させられましてね。そして、私も何かしなければ、と強く感じたんです」

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION