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エッセイ 老いのつぶやき・胸のうち 本間郁子

 

特別養護老人ホーム編 2]

寮母の心が和むとき

 

私が10年ほどボランティアとしてかかわっている特養ホームに、とてもステキな女性がいる。ボランティアに行くと、どんなに短い時間でも忙しくても必ずその人のところに寄ってしまう。寄るというよりも訪ねたくなるのである。

そのステキな女性は98歳。話すことはできるが耳は聞こえない。70代の時に病気がもとで耳が聞こえなくなったという。今は目の方もほとんど見えていないのだという。彼女は、いつも車イスに座って、寮母室の近くにいる。寮母たちが頻繁に通るところに連れてきて、みんなができるだけ手を触れたりできるようにという寮母の配慮である。

私が、彼女の手に触れるととてもうれしそうに両手で私の手を包み込み、話しはじめる。話はくり返しだけど、何度聞いてもそのたびに楽しくうれしくなるのである。

「私みたいなおばあさんになったらしょうがないわね」「年は取りたくないわね。みんなからおばあさんって言われるもの」「おばあさんになるとみんなから嫌われるわ。余計なおせっかいするから」と言ってにっこりほほえむ。そして、しばらく間をおいて、今度はなつかしそうに「女学校は第三女学校だったわ。元気のいい学校でしょう、私は、お転婆のおねえちゃんだったわ」「そのころが一番よかったわ。元気で楽しかった」。そして、私に「あなたも東京の女学校?そう。私も東京の女学校よ」とうれしそうに言い、私の手を握ったままリズムを取りはじめ浦島太郎の歌を歌いはじめる。

 

 

 

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