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今や、子供だけでなく大人のファンも数多く付いた。だが実は、三月いっぱいで、井の頭公園での上演は終了。口コミで人気が広がったことからマスコミに取り上げられはじめ、その効果で全国各地からの公演の依頼が入るようになったのだ。沖縄の国際通りでくり広げられるイベント、木曽の小学校の新築披露、結婚式の余興、学園祭、さらには子供会や児童館と、依頼先の地域も対象年齢層もさまざまだという。

「創作をはじめたときには、これで食べられるようになるのは、まさに"億分の一"の確率だと思ってたけど(笑)、やってるうちに万分の一、千分の一になり、恐らく、来年は間違いなく食べられるようになるはずです」

ピカさんにとって、ほかの誰もやっていないやり方で、さまざまなメッセージを伝えていける顔面紙芝居は、試行錯誤を重ねたうえに見つけた「天職のような」表現方法だという。それが世間に認められることは、長年の夢でもあった。そして、五〇を過ぎた折り返しの人生の中で、今、まさに、それが現実になろうとしている。創作活動に専念しはじめてから月に二回開いていたという家族会議も、最近は明るさを増してきた。

「特に、学校や児童館などで上演させてもらえるのがうれしいですね。地元の人とふれあうような形で活動していきたいというのが、ぼくの理想とするところでしたから。あとはそう、二代目を息子が継いでくれたら、言うことないんですけどね。でも、無理だろうなぁ…」

そういって、ダンさんの顔をのぞきこんだピカさん。熱血パフォーマーも、この時ばかりは、子供を愛するただの父親の顔に戻っていた。

子供に見せる親父の背中に決して学歴や肩書きなど必要ない。失敗しながらも自らの人生を精一杯駆け抜ける、そんな人間臭さもまた、たまらない魅力なのである。

 

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歩行者天国で『怪人ハテナ』を名乗っていたころのピカさん。

 

 

 

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