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具体的な食事の例としてある日の基本メニューを示す(写真1)。食材を必要以上に加工することは、食べる意欲を失わせることに繋がることが多いので、軽い障害ならば、基本メニューに増粘剤をベッドサイドで用いたり、片栗粉でとろみのついただし汁を毎食トレイにつけ適宜用いたり、ゼリーをとりながら食事介助をすすめることで解決する方法をとる。頭頸部癌の場合は、個々人の病態に合わせて調整を行った粘度のミキサー食となる場合が多いが、この場合も可能であれば固形状態で摂取できる食材を献立の中に1品は取り込み、食べる楽しみを感じることができるよう配慮すべきである(写真2)。

2]の問題点の経口では十分な栄養補給ができない場合の解決方法として、一般病院では管栄養の導入が検討されることが多いと思う。しかし、ここ1年間では当院ではIVHの入院後の施行例はなく、経鼻栄養も新たな施行も1例ほどである。むしろ十分な時間と本人の希望を確認の上、経管栄養から経口に移行できた症例を多く経験してきた。しかし、食形態の変化や看護ケアサポートの可能性を超える場合では一選択肢として、患者にとって負荷の少ない胃ろうの造設は現在数例経験している。

3]について、プリンペランやステロイド等の薬剤投与により食欲が刺激され、これが食事摂取状態の好転に結びつくことは残された日々における患者のQOLの維持からも望ましい。しかし、咀嚼障害や嚥下障害などに代表される改善し得ない阻害条件がある場合は、薬剤による食欲亢進が重複する苦痛を患者に与える可能性もある。

さらに、終末期には、精神的渇望状態による食に対するこだわりの強化も経験する。これらに対しては、むしろその中心原因である精神的支えをどのように充足するかといったメンタルサポートの存在が、より求められる場合もある。

4]については終末期になると患者の摂食意欲は徐々に薄れていき、この時期に全身衰弱とともに嚥下障害が現れることは多い。しかし、これに反して家族や近親者の摂食へのこだわりはむしろ強くなる。ホスピスにおいてはこの時期多くの医療的行為は控えられるため、なおさら残された生命維持手段としての食は過剰な期待を負わされることになる。この段階での栄養摂取はもはや意味がなく、一日数片の氷を与えることが患者にとってよりよい選択であることを家族に説得することも、スタッフの役割である。

ホスピスで亡くなった方々の最後の食事の形は、基本メニューの方が36%、TS(ターミナル・スペシャル)食は34%となる。

このようにして当院では、この時期TS食を用い食事ケアの面での看とりの体制をとっている(表2)。この食事は、特定の形態の食事をさすものではなく、終末期の患者さんに対応する食事ケアの体制を示すものと考えている。TS食は時間や回数にとらわれず希望されるものを提供する食事筆であり、現実に多いのは、果物、ゼリー、シャーベット、汁物などの水分補給が主となるものである(図3)。

TS食の継続日数人数を示す(図4)。TS食開始より、ほとんどの方が1週間で亡くなられている。

 

まとめ

以上、嚥下障害のある患者への対応を通してホスピスでの食事の現状と問題点を検討した。

一般的にはホスピスに入られる患者像を終末期のみと捉える傾向から、ベッド上で経口からは少量の飲食のみが可能との消極的認識も強い。しかし、実際ホスピスで受け入れる方々は症状緩和や在宅への移行準備を入院目的とすることも少なくなく、これらのケースでは症状コントロールが効果を現すとADLが拡大し、次いで栄養状態の改善あるいは維持が図られることにより、その後の患者のQOL維持の可能性も維持されることとなる。

食事および摂食行動はこうした積極的な働きをホスピスケアにおいて発揮できるものである。

また、嚥下障害をもつ患者への食事援助は調理から食事介助までが含まれ、ナース、栄養科職員、看護助手、ボランティアとさまざまな職種がかかわるケアである。これには多職種にわたるケアや対応の方法などを検討し、病状の変化と摂食状態の状況について評価を行うなどの課題も残されてはいるが、チーム医療が機能するホスピスケアでは、実現しやすい連携プレイからなる分野となるはずである。

今回の問題提起をきっかけとして、嚥下障害にとどまらず他の症状緩和にも独立型ホスピスとしてのシステム整備の可能性を広げていきたい。

 

死の臨床研究会年次大会、札幌市、1999.9

 

 

 

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