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これらのことは、まさに、コミュニティが蓄積してきた力を発揮する方向での提案である。コミュニティに一定の行財政権限を移し、住民の合意のもとでまちづくりに関する事業化を図る力量をコミュニティに求めている。この提案は、身近な地域で自治を体験しながら、地域分権を拡大していく方向を明示したものといえよう。これらの内容は、行政担当責任者からの具体的な提案として、注目しておきたい。

 

地域分権を担う力の蓄積過程

 

それでは、コミュニティは、生活地から分権を実現するために、これまでどのような活動を蓄積し、分権にいたる現実的条件をつくりあげてきたのであろうか。これまで、地域住民組織(町内会・自治会、コミュニティ)は、歴史的に多様な行政末端業務を担い、地方自治の地域的側面を分任してきた。その過程において、国-地方自治体-地域住民組織という行政ルートが確立した。地域住民組織は、行政末端組織としてではあっても、その機能を地域で担い続けてきたことに大きな意味がある。このような過程は、住民自身が地域像を描きながら、行政末端業務を生活地で主体的にとらえかえして取り組む地域分権への条件づくりとそれを担う力の蓄積過程であると評価してよい。このような取り組みを多様に経験することによって、住民が掌握することが必要な地域分権の内容を明らかにしていくことができよう。

現在、多くの自治体では、まちづくり条例により地域住民の同意にもとづいて地区計画を策定して、法の基準を超えて開発行為などの規制・誘導を行っている。そこでは、地域(住民)が主体になったまちづくりと分権化への模索がはじまっている。以下に、これらのまちづくり条例のいくつかを紹介し、その積極的意義をみていくことにしたい。

「掛川市生涯学習まちづくり条例」は、「土地が私有物であっても高い公共性を併せ持つことを生涯学習し」その利用を総合的計画的に行うために、市長が生涯学習土地審議会の議を経て、利用転換や保全可能な特別計画協定促進地区の指定をすることができる。そのため、自治会の代表者および土地等の所有者または代表者には、当該促進区域についてのまちづくり計画案を策定することが義務づけられ、市長がその計画案を認めたときは、審議会の議を経て、当該促進地区の自治会代表者等との間にまちづくり計画協定を締結し、特別計画協定地区として指定することになる。この協定区域で建築物の新築や土地利用の変更を行おうとする者は、届出が必要となり、市長がまちづくり計画協定に不適合と認めるときは是正のための助言や勧告ができる。こうして、掛川市は、条例にもとづいて、公共性の高い土地について、市民(自治会)参加によって自治体の土地利用規制の権限を地域的に拡大してまちづくりをすすめている。

静岡県「大井川町地域参加のまちづくり条例」は、地方分権の流れのなかで、自己決定・自己責任を明確にし、住民の参加と創意によってまちづくりをすすめようという目的で策定された。それをすすめる組織として「まちづくり委員会」(以下、委員会)が設置されている。委員会は、自治令・町内会を単位とした住区から女性や若い人々を含んだ幅広い年齢層の住民や各種団体から選出された者で構成する。委員会は、現在のところ48組織(おおむね1委員会20人で構成)設置されている。さらに、小学校区を単位とする地区で、「まちづくり協議会」(以下、協議会)が設置され、全町的・広域的な連携が図られている。委員会の活動にたいしては、次の三つの支援制度が設けられている。それは、(1)財政的支援として、1]運営資金(委員会の運営費)を一律1委員会年額15万円に加えて、世帯数に400円を掛けた金額を助成、2]事業資金(委員会の事業費)を1委員会年額上限400万円を助成。この事業資金の使途は、住区住民のまちづくり計画に寄せられた創意に委ねる。(2)まちづくり支援チームが町職員によって編成され、1委員会3人程度派遣(地域担当制)して、問題整理や計画づくりにあたる。

 

 

 

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