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緊急通報システムの最大の問題である「日常の不安や心配事に対する応答・相談機能の不足」を解消するためには、高齢者心理をふまえた対応のできる専門的なスタッフを配置した「連絡センター」を確立する必要がある。モデル地区の一つである小鹿野町が、実施している方式(相談電話の受皿を在宅支援センターとする)を全利用者に適用し、24時間対応体制とするなどが、一つの方向であろう。

すでに、そのような観点から対応システムを構築し、かなり広範な自治体から「緊急通報システム事業」の委託を受けている民間事業者の事例として、(株)安全センターがある。同社は、創業以来10年近くも赤字基調に悩みながらも、緊急通報サービスと日常的な相談機能を組み合わせた比較的廉価な会員制サービスを展開してきた。そこで得た知見は、「緊急通報には誤報がつきものである」、「いつが緊急なのかは本人も判断に迷う」、「誤報を恐れて通報装置を使わないでいると、いざという時に機器が見つからなかったり、使い方がわからなかったりして、結局は役に立たない」、「誤報や緊急性のない通報に対してまともに応答することが利用者からの信頼を得るポイントである」、といったものであり、緊急時に機能させるには日常の連絡や相談が決定的に重要だということである。要するに、言葉の真の意味での「見守り」機能と「緊急時の探知・発見」機能は不可分だともいえよう。

安全センターのシステムは、情報通信システムを利用してはいても、その両端にいる利用者(高齢者等)と相談要員(オペレータ)の間のコミュニケーションを重視するタイプである。これに対して、総合警備業の(株)セコムが実施している「緊急通報サービス」は、もっと情報システムの機能に依存するもので、同社の「ホームセキュリティ・システム」にオプションサービスとして付加したものである。これは、緊急事態の通報を「本人自身がする」という、人間的要素があまりにも大きく、それがシステムの致命的欠陥(いざという時には、通報できる状態ではない可能性がかなりある)ともなりかねない点を解決する一つの代替案である。これに似た提案としては、居宅の要所要所に生活シグナルを感知するセンサーを設置し、システムが「異常」と判断した場合には、システムが自動的にセンターへ通報する、というものがある。これらはいわば、「発見・通報」というサブシステムを、利用者本人から情報システム側へ置き換える部分機能の置き換え案といえる。

さらに、「現場確認・保護」のサブシステムを置き換える提案もある。「消防方式」における現場確認機能は、これまた近隣の協力者という人的「資源」に依存しており、「いざ」という時に不在であるなど不安定性を免れない。上記のセコムのシステムは、この点も受信したセンターの職員が担うという形をとっており、全体として「プロ」の機能に依存する方式である。

これに対して、「あんしんホームネット」が提案するシステムは、より地域資源に近いタクシー会社が通報の受信センターとなり、通報者宅の付近を走行中の自社車両を無線で探し出し、現場に急行させるものである。乗務員が救急救命士やホームヘルパーなどの有資格者であれば、利用者にとってはなお心強いことになる。

 

 

 

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