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ストレステストは村上の方法8)に従い算出した。本研究における「シンドロームX」の定義は高血圧、耐糖能異常かつ高中性脂肪血症があるものとした。なお、肥満患者の末梢血白血球よりDNAを抽出し、PCR-RFLP法によりβ3-アドレナリン受容体のミスセンス変異(Trp64Arg)を検出した9)。肥満及び糖尿病患者を対象に動脈硬化予防を目的とした教室を企画し、教室終了6ヶ月後に摂取カロリー、食事のムラ、空腹時血糖値、HbAlcを再測定した。結果は、平均±標準偏差で示し、統計解析にはStatcel(オーエムエス、埼玉)を用い、5%以下を有意差ありと判定した。

 

III. 結果

疾病点数の平均は2.3±1.3点であった。ストレステストの平均は4.9±3.5点で、軽度以上のストレスが7.2%に認められた。健康診断受診者中の高血圧は458名、耐糖能異常は112名、高中性脂肪血症は244名であった。へき地におけるシンドロームXの頻度は1.4%(18/1261名)であった。また、肥満患者におけるシンドロームXの頻度は11.5%(25/217名)で、健康診断受診者より有意に高かった。肥満患者におけるTrp64Arg変異アレルの頻度は0.22であった。

教室には44名の参加があり、6ヶ月後には糖尿病患者の摂取カロリー(1464±129kcal/日)、食事のムラ(4.4±2.4%)、空腹時血糖値(-88±58mg/dl)、HbAlc値(-3.1±0.9%)は有意に減少した。

 

IV. 考察

シンドロームXの頻度は都市部における成績10,11)とほぼ一致しており、今回の結果から、都市部のみならず、へき地においても肥満に伴う生活習慣病やシンドロームXが増加していることが明らかとなった。また、その原因がストレスによるというよりも、遺伝的背景(肥満感受性遺伝子)に過食や運動不足など環境要因が加わって発症している可能性が推察された。この変異は、肥満のみならず、糖尿病早期発症、糖尿病合併症や冠動脈疾患との関連も報告されている12,13)。しかしながら、オーストラリア人における研究では、本変異があると、(恐らく体脂肪の増加による)初潮年齢の早期化による妊娠可能期間の延長、その結果としての出産数の増加といった妊孕性との関連が報告され、本変異は必ずしも悪い変異ではないようである。人類の歴史は、現代までの大半は飢餓の歴史であり、飢餓時には本変異のような食物を脂肪として蓄える変異を持っていた方が生存に有利だっとも考えられる(倹約遺伝子仮説)。

 

 

 

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