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II. 対象と方法

人が異文化に適応して行く過程は、その人のもつ異文化受容の度合いおよび文化(民族)同一性の程度が適応過程に深く関係している7)。異文化受容とは宿主文化の側面をいかにうまく取り入れているかであり、言語能力、食習慣、対人関係、文化規定行動、文化受容準備性などにより受容の度合いをあらわすことができる。文化同一性はその人のもつ主観的帰属意識であり、生活様式、服装、言語、宗教などを通して母国文化への同一性の程度を知ることができる。

そこで異文化受容と文化同一性の二軸を想定し、それに関連した質問項目をポルトガル語(付録1)で作成した。これを日系ブラジル人のための文化受容質問票と名付けた。アンケート用紙は、この17の質問項目からなる文化受容質問票、社会人口統計的因子を知るためのフェース・シート、SRQ-20(Self Reporting Questionnaire ポルトガル語版)の三者からなる。SRQ-20 は、WH02)によって開発され、それによって疾病の真の有病率を知ることはできないものの、簡便、低コストで、施行者に集中的なトレーニングを必要としない、コミュニティにおける精神障害(うつ病や不安障害)のスクリーニング法として有用な質問票であることが、国際的に、特に発展途上国での数々の調査2)で確認されている。今回使用した SRQ-20 ポルトガル語版は、すでにブラジルにおける調査でも、高い妥当性、信頼性が得られている9)

栃木県宇都宮市には、約1400名の日系ブラジル人が滞在している。彼らの多くは、同市内にある数カ所の工業団地で工場労働者として働いている。今回、われわれは、その一つ清原工業団地に隣接する清原台地区に在住する日系ブラジル人の精神医学的調査を試みた。ここには、日本各地に点在する日系ブラジル人居住地域に共通する環境が認められる。同市に在住する日系ブラジル人およそ700人の住所リストをもとに、K地区に在住する日系ブラジル人家庭126世帯を対象にして、1999年4月から1999年12月までの8カ月間に戸別訪問してアンケート調査を行った。その結果、88世帯151名から回答が得られ、回答率は69.8%であった。

 

III. 結果

A. 基礎調査

性別では男性79人、女性72人であり、年齢別では10歳台が6%、20歳台が34.4%、30歳台が36.4%であり、40歳台が13.9%、50歳台6%、60歳台が2%で、20歳代から40歳代までで84.8%を占めていた。

婚姻に関しては、72.3%が既婚、23.2%が独身であり、世代別では日系二世が60%、三世は22%、非日系が12%を占めていた。日本の滞在年数は5年未満が33.8%、5年から10年が50.3%、10年以上が13.3%を占めていた。

日本語に関しては会話が「できる」が25.2%、「少しできる」が60.9%、「できない」が13.2%であり、筆記では「できる」が9.9%、「少しできる」が56.3%、「できない」が33.1%であり、筆記能力になると二世が2/3を占めるにも関わらず、ほとんどの日系人が不自由であった。

 

 

 

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