日本財団 図書館


これらのかたがたは、在宅介護支援センターなどの巡回の機会が多く、介護サービス情報が行き届いていないということはなく、サービスは知っていても利用する必要に迫られていないようである。更に、要支援状態の比較的若年の方々が交流と機能維持を求めてデイサービスなどを多く利用する傾向があるのかもしれない。

要介護度との関連が示唆されたために、要介護度が得られた対象者の情報収集に努め、約50%を調査したが関連は認められなかった。これまでの対象者が偏った集団であることも考えられるため残りの50%についても引き続き調査を続ける必要がある。

 

4 まとめ

ここまでの調査で、要介護度と介護サービス利用の有無は現在のところ関連が見出せなかった。また、独居高齢者、二人暮らし高齢者といったサービスを多く受けていると思われた対象者がむしろサービスを受けている率が低いことがこれまでの調査でわかった。また、サービスの利用状況と利用意向などを問うアンケート調査では、安心して生活を営むために高齢者が抱いている要望について包括的洞察が難しく、高齢者の要望が既存の介護サービスの枠外に重きが置かれている可能性を強く感じた。

これまで、高齢者の立場に立ち、一般高齢者あるいは社会的弱者と呼ばれる、日頃公的な場所で発言の機会の少ない方々から系統的に情報を収集し、高齢者の心に内在する“要望・要求”を実証的な研究の立場でもさらに追求することが重要と考えられ、引き続き調査を続けた。

 

B 高齢者が潜在的に抱いている「安心して生活できる」ためのニーズ(ウオンツ)調査

〜高齢者の抱くニーズを包括的、体系的に捉える〜

 

この調査ではさらに、インタビュー手法などを用い、高齢者が安心して生活できるために必要としていることを包括的に拾い上げ、体系化を試み、これまでのニーズ調査で捉えられなかった、高齢者や住民の心に潜在する「こうありたい」「こうなりたい」という要望、要求を拾い上げる。この要望、要求を、本論文中では平山らが提唱している“Wants (ウオンツ)”と定義する。

 

本研究の目的の1つが、高齢者“ウオンツ”の拾い上げによる体系的分析、言い換えればカテゴリーの抽出と関連性の考察にあるので、質的な充実もテーマとしている。量的な判断は既存の概念にとらわれた範疇での検討になる恐れがあったこと、また予備調査を行う中で、現在の介護保険制度を中心とした一般的ケア内容が必ずしも高齢者の“ウオンツ”を満たすものではない可能性があり、多面的、包括的な視点から高齢者の“ウオンツ”を見直し、今後のケアサービスと保健・医療・福祉のフレームワークを考える必要があると考えたからである。また、“ウオンツ”は通常は軽視されたり、行政施策に反映されにくい普段「あきらめている」望むことや、「声無き声」までをも拾い上げられる可能性がある。これらは行政やケアスタッフの考える高齢者の要望や問題点で作り上げたフレームワークと比較することで明らかにされる可能性がある。

この調査では、高齢者が安心して生活できるために求めている“ウオンツ”を拾い上げ、体系的に分析し、さらに高齢者の特性に応じた“ウオンツ”の差異についても検討を加える。これらは介護保険の枠組みを意識せず、高齢者が本来的に求めている“ウオンツ”を追求することとなり、新たな保健・医療・福祉の包括的アプローチの方向性を示せる可能性があり、介護保険制度との関係についても考察する材料となる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION