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介護支援については、今回の対象は当院で既に半年以上にわたり管理されていたことから、訪問看護やヘルパー派遣事業、老人保健施設等での短期預り(ショート・スティ)などの社会的支援は必要に応じて既に供給されていると考えられる。一方、家庭においては、介護者の13名が仕事(うち10名は農業)を有し、同居者も71%で存在していたが、副介護者はいないとする者も7割で、その多くは息抜きができない状況であった。息抜きの有無は介護負担と密接に関係しており、重要な要素である。介護者は一日のほとんどの時間を在宅で過ごし、例え仕事を有していてもその一部あるいはほとんどを犠牲にして介護に当らなければならない。一方、例え被介護者を施設に入所させたとしても、果たして負担の軽減になるかどうかは疑問である。一部の介護者からは、家族が介護するのは当然であるのにそれを放棄したことによる罪悪感や、入所に伴う環境の変化により痴呆が進んだり、ADLが低下した場合にはそうした気持ちがさらに高まるという意見を耳にする。実際に、Kahanら27)は血縁者の支援が最も介護負担の軽減には効果的で、介護者を孤立させない方法であると指摘している。今後、介護保険の導入により各種サービスの利用が被保険者の権利として定着し、被介護者を社会で看て行こうとする風潮が高まれば、このような問題は解決するかも知れないが、現状では介護者は肉体的のみならず精神的にも束縛され続けること20)を常に念頭におき、介護環境を整えていくことが重要であろう。

介護者の健康問題については、抑うつ状態が非常に高い頻度でみられるとされ、それをきたしていれば、介護負担はさらに大きいものとなる。一方、介護者が無理をし過ぎていることを示唆する状態でもあろう28)29)。また、介護を担当する女性が職を有している場合には、職業生活と介護者役割との間でバランスを取ろうとして相当なストレスを被るとされている。自らが掲げる高い基準に達成できいないと罪悪感を覚え30)、結果、さらに余暇と仕事を犠牲にして介護の責任を担おうとする場合もみられる。本調査では介護者の3分の1が自らの健康状況を「不良」と評していたが、他の報告でも同程度の頻度が報告され、ストレス関連症状が通常の3倍も多くみられている。当然ながら向精神薬の使用も高いとされている31)。本調査でも中等度以上の抑うつ状態では介護負担度は有意に大きく、介護者の抑うつ状態は介護負担度と密接に関係していた。さらに、精神的健康度にみられた不眠、ストレス、生きがい・自信の喪失、不幸せは、最悪の場合に介護放棄や被介護者の虐待、自殺へと発展する可能性もある。

主観的幸福感については、介護負担度と負の関係を認め、各種背景因子では趣味活動の存在が唯一関連を認めた。公的サービスの利用や生活習慣の指導などにより時間的解放を図ること、そして介護負担を軽減することが求められよう。

 

 

 

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