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第1章 緒言

 

1.1 研究の目的

平成10年8月26日夜、南大東島の南南西約150キロの海上で、インドネシアのGebe島でニッケル鉱を積載し我が国へ向けて航行していたパナマ船籍のばら積み船シープロスペクト号が転覆・沈没した。この事故により乗組員21名のうち、11名は救助されたが、10名が行方不明となった(8月27日付琉球新報)。事故原因の一つは、貨物の荷崩れであると推定されている。

粘着性物質であるニッケル鉱は、水分値が一定の値を超えると剪断強度が著しく低下し、荷崩れ発生の可能性(以下、「荷崩れ危険性」と呼ぶ。)が急激に高まることが知られており、これまでにも、ニッケル鉱運送中のばら積み船の異常傾斜事例が報告されている。ニッケル鉱を安全に運送するためには、水分値の上限を決定する等、貨物が有する荷崩れ危険性を評価することが必要であるが、ニッケル鉱の荷崩れは液状化とは異なる現象であるため、液状化物質に対する運送許容水分値決定法は適用できない(1)

安全運送のため水分値の上限を決定するには、水分値を変えて貨物の静的剪断強度を計測し、得られた静的剪断強度を用いて、想定される積付条件について荷崩れ危険性を評価すれば良い。ニッケル鉱等の粒状物質の静的剪断強度を計測する方法には、一面剪断試験や三軸圧縮試験といった実験室試験がある。これまでの研究により、これらの試験による剪断強度計測結果に基づき、ニッケル鉱を安全に運送するための水分値の上限を決定する方法は示されている(2)-(5)。しかし、これらの試験は荷役現場において実施するには適さず、また、一週間以上の期間を要することから、荷役現場で用いることができる簡便な試験法の開発が求められている。また、従来の方法(2)-(5)には、篩い分けにより最大粒径を小さくした剪断強度計測用の試料に対する水分値の上限(以下、「水分値の一次クライテリア」と呼ぶ。)から、篩い分けされていない貨物の水分値の上限を求める際の換算方法が安全側に過ぎるという問題があった。

本研究の目的は、粘着性ばら積み物質であるニッケル鉱の荷崩れ危険性を評価するための現場試験法(以下、「ニッケル鉱荷崩れ危険性評価試験法」と呼ぶ。)を開発することである。

陸上では、地盤の強度を簡便に評価する方法として円錐貫入試験等が用いられる。ニッケル鉱の荷崩れ危険性を評価するにも、基本的には同様の方法を用いることが考えられるが、試料の調製方法等試験手順や荷崩れ危険性の評価基準は本研究により決定する必要がある。試験法が開発され、鉱石の産地等によらない評価基準を決定することができれば、試料の水分値を変化させて試験を実施することにより、航海中に荷崩れを起こす可能性のある水分値の限界値(以下、「荷崩れ限界水分値」と呼ぶ。)を求めることもできる。

 

 

 

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