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所謂「武士道」の中枢とは、忠誠、献身の履行であり、真摯、純一、誠実、真正、信義を基底とした行動規範である。日本武士道における忠誠、献身は、単なる平身低頭、盲目的服従、盲信を謂うには非ず、個人の自律性、真摯な抵抗精神、諌争の姿勢、そして、真正な積極的行動=業績主義を内包したものであった。[cf.丸山真男、相良亨、笠谷和比古]その根幹は、儒教的教義を基礎としながらも、朱子学広範化以降の中国士大夫の間に特徴的なスタティックな道義の遵守を是としない特徴がある。もう一つ、五常五倫の道を軸とした儒教的教義に基づく社会意識、他者への配慮と利他の精神、そのコンテクスト内での自己犠牲の精神も、武士道的行動原理である。

社会的空間の中で限定されたひとつの位置(つまりは特定の身分、社会集団など)に付着する社会的諸規定は、自分自身の身体への関係を通じて、それぞれの同一性を構成する心的傾向(disposition)を、そして、適性をも作り上げる」ものである。(cf.「実践感覚」I、p.115)身体の動かし方と、社会的意味作用と社会的価値を重ね合わせることは、身体的空間と社会的空間およびこの両空間における移動の間の等価性感覚を教え込む。豪毅、克己、忠義といった武士的徳目の教化が、武家社会においては武勇伝等の教授を通じて継続的・恒常的に行われる。武家社会の日常における様々なかたちでの武士道の教示─口伝であれ、正式な講義においてであれ─は、包括的、立体的武士道教化を促し、武士が属するシステムにおける慣習的行動をその構成員にプラティーク(実践)させ、或いは実践化せられる可能性を常に孕むことを意識させ、倫理、形而上学、政治までも教え込む。武士道ハビトゥス化への包括的プロセシングである。

28. 土屋喬雄、『日本経営理念史』、pp.8-9

29. 武田晴人X由井常彦、「江戸に学ぶ“経済再建プラン”」、『公研』、1999.11

 

 

 

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