塩分は全体的に34から35の間で変動した。東経153度から西経173度までの塩分の値は、観測した結果と、持ち帰り分析を実施した結果が異なったため図4.1-1には記載していない。その原因については現在検討中である。
大気中の二酸化炭素濃度は航海を通してほぼ一定で、その平均値は371ppmvであった。
海水中の二酸化炭素濃度は東経160度付近では、水温が14℃から19℃に上昇し、海水中の二酸化炭素濃度は331ppmvから316ppmvまで低下した。同様の変化は他にも見られ、東経174度から東経178度付近でも観測され、水温が18℃から15℃まで低下し、海水中の二酸化炭素濃度は317ppmvから332ppmvまで上昇した。これらの海域では、水温と二酸化炭素濃度の負の相関が見られた。
上述のように、海水中の二酸化炭素濃度は大気中の二酸化炭素濃度に比べて、その変化は大きい。以下に海水中の二酸化炭素濃度を変化させる主な要因について示す。
(1) 熱力学的効果;
水温、塩分の変化によって海水中の二酸化炭素の溶解度及び、海水中に存在する炭酸の解離定数に影響を与えて生じる効果。(海水中の二酸化炭素は、海水中の炭酸解離により、以下に示すような化学平衡の状態にある。その平衡状態は水温や塩分により変化し、海水中の二酸化炭素は全炭酸量の約1%を占めている。)
CO2+H2O←→H2CO3
H2CO3←→H++HCO3-
HCO3-←→H++CO32-
この効果は主に水温に依存しており、水温1度の上昇に対し、海水中の二酸化炭素濃度は約4%上昇する(気体の溶解度は水温に対して負の相関を示すが、化学平衡の状態等を総合すれば、熱力学的効果としては水温に対して正の相関となる)。
(2) 湧昇の効果;
湧昇により海洋の表面に全炭酸に富んだ中深層水が供給されて、全炭酸が増えることによ生じる効果。全炭酸が増えると上記の平衡により二酸化炭素の濃度は上昇する(鉛直混合や蛇行した黒潮の様な海流による移流でも同じような効果がある)。
(3) 大気と海洋間の二酸化炭素交換;
大気と海洋間の二酸化炭素の吸収、放出による効果。
(4) 生物活動による効果;
海洋中の生物活動の光合成により減少し、呼吸により増加する効果。
080E航の水温と二酸化炭素濃度の負の相関は、水温が二酸化炭素濃度に及ぼす熱力学的な予測とは、逆の観測結果が得られた。これは上述の湧昇の効果によるもので、湧昇による海水は表面海水より水温が低いため見かけ上、水温と負の相関を示していると推測される。