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4.複数船舶の場合の外国船に対する追跡権の行使

 

(1) 国連海洋法条約による複数船舶による違反の場合の追跡権行使要件

密輸品の洋上積替え等、犯罪が複数船舶によって犯された場合に、関与した外国船舶に対する追跡開始要件として、前記のごとく、国連海洋法条約111条は第1項と第4項に規定を置いている。

第111条第1項によると、外国船舶を取り巻く他の船舶の行動との関係で、当該外国船舶の追跡が正当とされるには、追跡開始時に、当該外国船舶又はそのボートが追跡国の内水、群島水域、領海又は接続水域にある場合(排他的水域又は大陸棚に適用される沿岸国の法令の違反がある場合には、排他的経済水域又は大陸棚にある時)でなければならないとし、しかも、第4項により、追跡権の開始は、外国船舶又はそのボート若しくは外国船舶を母船としてこれと一団になって作業する舟艇が、領海又は、場合により接続水域、排他的水域若しくは大陸棚の上部にあることを、その場における実行可能な手段により確認した後でなければならないとする。これらの規定は当該外国船舶自体は関係水域の外にいたにもかかわらず、それと関係のある船舶が違法行為により同水域内で拿捕されたため、当該外国船舶もこれに連結があったものとして、追跡権が行使される場合を記述したものであり、客観的属地主義に基づく解釈上の所在を援用したものであると説明されている24。条約上は、第4項には、「外国船舶を母船としてこれと一団になって作業する舟艇」の文言が入っているのに対して、第1項にはないといった不統一がみられるが25、外国船舶と関係船舶との間にどのような基準で一体性を認められるかにつき国際法上争いがあるようであり、この点につき、関係船舶が外国船舶に属するボートであるか否かにかかわらず、違法行為の遂行をめぐる両船間の管理・支配の一体性26、あるいは組織的一体性ないしは事前共謀27が基準となるのであれば、国内実体法における共謀・共犯関係の議論と実質的に重なるものと思われる。

24 山本・前掲書(注20)244頁。

25 この経緯に関しては、杉原・前掲(注19)82頁以下参照。

26 山本・前掲書(注20)244頁。

27 杉原高嶺『外国船舶に対する追跡権』日本海洋協会編『海洋法・海事法判例研究第2号』(1991)83頁。

 

 

 

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