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なお、第三の立場には、沿岸国の国内法令が接続水域でも適用されるという立法(国外犯規定)が存在することを前提に、例えば、外国船舶が接続水域内で徘徊であるとか、関税賦課の貨物の洋上積替え等の特定の行為を行ったり、沿岸国の検査、警告といった事実上の規制に実力で抵抗したといった前記(d)の場合を防止の対象に含め、これらの場合に限って例外的に国外犯として接続水域において逮捕し、処罰することができるよう定めることは許されるとする立場20と、これとは多少ニュアンスの異なる主張として、領海での違反防止に連結する限りで、つまり領域内での法益侵害の危険を発生させる場合にのみ、入ってくる船舶に対しても接続水域内で拿捕・逮捕を認める立場21があるように思われる。
後者の立場は、自国の法益保護のための予防処罰のためであること(法益保護のための処罰の早期化)を徹底するものであるように思われる。例えば、後説は、接続水域内での輸入目的の禁制品の所持は輸入予備罪として、沿岸国の国内の公共の健康に危険をもたらすものであるから、処罰とそのための執行措置を執り得るが、単純所持は接続水域内の法益侵害にとどまるものであるから、これを処罰するための執行措置を行い得るには、接続水域制度以外の体制(例えば、麻薬新条約)に基づくのでなければ行い得ないとする22。後説によると、密輸や密入国の目的があるかないか不明である場合に接続水域における徘徊又は貨物の積替えの事実だけでは未だ国内法益の保護との関連性が見出せないので、拿捕・逮捕といった強制措置は執り得ないことになろう。なお、後説も前説と同様、接続水域での違反処罰は国外犯処罰規定の存在を前提とし、国内犯であるとの構成は採らない。輸入の未遂は陸揚げに接着した段階でしか認められず接続水域での輸入未遂罪の成立は考えられないとし、また輸入予備罪も国外犯として扱う立場に立つ23

20 山本草二『海洋法』(1992)241頁、村上暦三「接続水域の設定と国内法」日本海洋協会編『海洋法関係国内法制の比較研究』(1996)108頁、同「密航・密輸と海上における管轄権」海上保安協会編『新海洋法の展開と海上保安第2号』(1998)7頁以下。

21 田中利幸「密航・密輸と海上における管轄権」海上保安協会編『新海洋法の展開と海上保安第2号』(1998)15─16頁。

22 田中・前掲(注21)23頁。

23 田中・前掲(注21)26頁以下。犯罪地の決定につき、犯罪者の表象によれば結果の発生が予定されていた地であるとする立場を採れば、なお国内犯とし得るが、我が国の通説はこのような考え方を採らない。この点に関して、各国の考え方を概観したものとして、林久茂『海洋法研究』(1995)92頁以下。

 

 

 

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