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従って、例えば、密輸品の洋上積替えの場合に、二船間に密輸入の共犯関係が立証できる場合には、関係船舶が関係水域内にあり(後述(2)判断基準に従って違反行為が国外犯の場合には国外犯処罰規定のあることを前提に)、それを実行可能な手段で確認すれば、関係水域外にいる外国船舶に対する追跡もなし得るが、共犯関係にない二船の不法取引の場合には、外国船舶に対する追跡権はなし得ないものと解されるように思われる。

(2) 法令違反を犯した地(犯罪地)

なお、関係船舶との一体性を理由に外国船舶を追跡するにあたっても、当該外国船舶自身に沿岸国の法令違反があること(正確には、法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があること)が前提になる。法令違反は、領海内で犯された場合(国内犯)と接続水域内で犯された場合(国外犯─4事項)、排他的経済水域及び大陸棚で侵された場合(国外犯─特定事項)に区分され、国外犯の場合には国外犯処罰規定の存在を前提にして、それぞれの場合に、違反行為が当該海域でなされたか否かを確認し、その海域から追跡権が行使し得る場合に当たるかにつき判断する必要がある。

ここでも問題になるのは、外国船舶が公海上等にあって、実際には一度も領海内等犯罪地とすべき海域に侵入して実行行為を行っていない場合に、なお当該海域で犯罪を犯したものと考えられるのはいかなる場合かという点である。

この問題は、一方において、犯罪地の決定28につき、客観的な犯罪事実を基準に、構成要件に該当する行為が行われた地又は結果が発生した地(遍在説)を犯罪地とするのか、それとも犯罪者の表象・意図を基準に、結果が発生するはずであった地もまた犯罪地とするのかに関わる問題として、もう一方において、共犯の犯罪地に関わる問題として論じられることになるが、我が国の通説及び判例は、犯罪地が国内であるといえるためには、客観的な犯罪事実を基準に、構成要件に該当する行為と結果の一部が国内で生ずれば足りるとする遍在説を採用しており、共犯の犯罪地に関しては、国内で結果が発生した場合及び正犯行為が国内で行われた場合には共犯者全員が国内犯であるとし(最決平成6・12・9刑集48・8・576)、共犯行為のみ国内で犯された場合には共犯者のみ国内犯とするが、当該海域で違反行為が犯されたかどうかを判断する場合も同様に考えればよいであろう。従って、外国船舶が関係水域外にとどまった場合でも、それと共犯関係にある船舶が関係水域内で違反行為を行った場合には、本船も関係水域内で違反を犯したものと考えられるが、さらに、当該違反を理由に追跡するには、前記(1)の開始要件をはじめとして第111条所定の要件を満たす必要がある。

28 詳しくは、最近の犯罪地の決定に関する論説として、辰井聡子「犯罪地の決定について(1)(2・完)」上智法学論集41巻2号(1997)69頁以下、41巻3号245頁以下。

 

 

 

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