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れた場合の責任(Liability for sizure without adequate grounds)として、「海賊行為の疑いに基づく船舶又は航空機の拿捕が十分な根拠なしに行われた場合には、拿捕を行った国は、その船舶又は航空機がその国籍を有する国に対し、その拿捕によって生じたいかなる損失又は損害についても責任を負う」(公海条約第20条及び国連海洋法条約第106条)と定めている。このadequateとは、十分な(sufficient)、ふさわしい(commensurate, equally efficient,)、必要とされる(equal to what is required)、満足すべき(satisfactory)という意味であるとされ(8)、海賊船舶の拿捕は、拿捕の時点において海賊行為の容疑について十分な根拠がある場合にのみ許容される旨を規定している。逆に言えば、海賊船舶の十分な根拠なしに行われる拿捕は、国際法上許容された措置の範囲を超えるものであり、許されないという趣旨である。

(ロ) 実際の手続きにおいては、公海上でその外観のみから海賊船舶をただちに拿捕するという措置がとられることは少なく、海賊行為の容疑に基づいて、公海上の臨検が先行して行われることが多いであろう。すなわち公海上で停船、乗船及び船内の調査が行われ、海賊行為の有無を確認した後に、海賊行為を理由とする拿捕が行われることになると思われる。

本条は、十分な根拠なしに拿捕が行われた場合には、拿捕した国が被拿捕船舶の国籍を有する国(旗国)に対して責任を負う旨を規定しており、被拿捕船舶自体に対する責任を定めているわけではない。海賊船舶の違法な拿捕について、拿捕国が旗国に対して負う国家責任であるという趣旨と解される。したがって、拿捕によって被拿捕船舶が被った損失・損害を拿捕国が直接に補償する場合は、本条の想定する範囲ではない。また、国籍を有しない船舶であるいわゆる無国籍船舶についても、本条でいう国家責任は生じないこととなるであろう。

(3) 公海上の臨検

(イ) 国家は、慣習国際法上又は国家間の合意により、公海上で他国船舶に対して管轄権を行使することが許容されてきた。特に、慣習国際法上、自国領域を越える海域で海賊、奴隷取引、海底ケーブル及び国旗の濫用など、

 

 

 

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