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国際的な秩序を害するとされる一定の海上犯罪に対して、その嫌疑がある外国船舶に対して逮捕、押収及び拿捕など一定の執行管轄権を行使することが認められてきた。その多くは、1958年公海条約の中に条文化され、ほぼそのままの形で国連海洋法条約にもひきつがれている。

(ロ) 公海上における執行管轄権行使は、主として自国又は他国による処罰を行うために、犯人及び船舶の確保と証拠の収集を目的とするものであるが、上述の海賊の拿捕の場合のように、洋上で最初からそれらの犯罪の存在が明らかな場合ばかりではなく、むしろ多くの場合は、何らかの容疑に対して、その犯罪や違反の存在を明らかにするための措置が必要となる。執行管轄権を行使する国は、公海上で容疑船舶に対して停船を命じて、これに乗船し、必要ならばその船舶書類、積荷及び乗組員を調査することになる。visit and searchと呼ばれる公海上の臨検権(right of visit)である。この執行措置は、特定の犯罪(違反)の執行のために合理的に必要な場合に、その限りで許容されるものである。合理性の判断基準としては、第一に、その執行措置をとるに当たっての犯罪の根拠があること、すなわち臨検の対象船舶が特定の犯罪の容疑があることについて合理的根拠があることである。第二に、船舶の航行の自由との関連において、現実にその干渉の程度が最小限度となるような方法、手段が選択されることである。この両者の基準に反して、違反容疑についての根拠もなしに臨検を行ったり、航行を阻害することの少ない別の執行措置の方法、手段が実施可能であった場合には、その臨検自体が許容された範囲を超えることになる。執行措置をとった国は、その違法な船舶への干渉によって生じた損失、損害を補償する責任を負うことになる(9)

(ハ) 国連海洋法条約第110条(1)は、この点について、条約上の権限に基づく干渉行為の場合を除くほか、公海において免除享有船舶以外の外国船舶に遭遇した軍艦が、当該外国船舶に臨検すること(boarding)することは、(a)海賊行為、(b)奴隷取引、(c)無許可放送、(d)無国籍、又は(e)自国国旗の詐称、のいずれかの容疑について合理的根拠(reasonable ground for suspecting that〜)がない限り、正当と認められないと規定している。

 

 

 

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