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刑事手続を前提として、事件に関して船舶などの押収をする場合には、任意処分としての任意提出・領置(刑訴法221条)によるか、強制処分としては、現行刑訴法は、令状による差押えを原則とし(憲法第35条、刑訴法第218条)、例外的に逮捕に伴う場合に無令状での差押を認めている(憲法第35条、刑訴法第220条第1項第2号)にすぎない。したがって、実際には、違反者から必要な書類の任意提出を受け領置するのでなければ、通常、令状による差押はできないので、違反者を現行犯逮捕する40とともに、逮捕に伴う差押によることとなる41。しかし、船長等を現行犯逮捕するというのは、ことに海洋汚染の場合、航行利益を考慮したボンド制度との調和を考慮すると、現実的ではない42。任意処分として、違反の事実については現認した状況についての捜査報告書を作成するなり、実況見分を行って実況見分調書を作成するなどし、さらに、必要な書類などについては任意提出を求めることとなろう。

いずれにせよ、法令違反を現認した海上保安官等は、将来の公訴維持を考慮して、捜査を十分に尽くしておく必要があろう。その上で、担保金等の告知をすることとなる。

なお、立法論としては、起訴されたとき、または処罰手続が開始されたとき以後にボンド提供により違反者を釈放し、押収物を返還することも考えられる43

40 航空機により違反が現認され、その航空機からの通報を受けて海上で海上保安庁の巡視船等が違反船舶に乗船し、海上保安官が船長等を現行犯逮捕するという場合、はたして現行犯逮捕が許されるのかは問題となる。安冨潔「現行犯逮捕」捜査研究567号62頁参照。

41 緊急逮捕(刑訴法210条)は、罰金刑については認められない。

42 外国人による漁業活動については、海洋生物資源の適切な保存と管理という観点から国連海洋法条約では、沿岸国にその主権的権利の行使を認めているので、これを受けた関係法令は、無許可操業、許可条件違反などの違法行為について、罰則として、漁獲物などの没収が認められている(EZ漁業法第20条参照)。この場合、没収対象となるこれらの漁獲物は押収物として刑訴法第122条・第221条第1項により、代価保管手続をとることになろう。、

43 この場合には、裁判所による釈放ということになり、いわゆる保釈と類似した制度となろう。

なお、担保金の返還は、事件に関する手続が終結した場合等に行われるが、ここにいう「手続の終結」には、不起訴処分のほか、裁判確定後の刑の執行が終了した段階も含まれるとする考え方がある、小倉・前掲解説119頁。したがって、このような考え方では、たとえば、仮納付付きの罰金刑を言い渡した場合、違反者が即日納付したとしても、罰金の仮納付は刑の終了を意味しないので、主務大臣は、裁判確定をまって担保金を返還するということになる。

 

 

 

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