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わが国のボンド制度では、司法警察員である取締官からボンドの告知がなされ、ボンドの提供があれば違反者は遅滞なく釈放され、押収物(船舶を含む)は返還される。これは、沿岸国としてのわが国が、刑事手続の確保のために出頭保証を求めるものであるといえる。

もっとも、処罰のための出頭確保という意味では、刑事訴訟法においては保釈(刑訴法第88条ないし第98条)がある。保釈は、一定の保証金を納付することを条件として、勾留の執行を停止する制度であるが、起訴後の裁判所・裁判官によりなされるものであり、起訴前に司法警察員である取締官によって告知され釈放されるボンド制度とは、その性質を異にするものである。

また、犯罪が行われたと疑うに足りる相当な理由が認められ、事件につき押収された船舶や船舶国籍証書等の文書の返還は、刑事訴訟法における捜査機関の行う還付または仮還付に類似するもののようにもみえる。しかし、刑事訴訟法における還付・仮還付(刑訴法第123条・第222条第1項)は、「留置の必要がないもの」でなければならない。これは、犯罪捜査や将来の公訴維持の観点から、占有を継続する必要がない場合をいうが、たとえば、証拠物として供しえないもの、証拠物として使用することを要しないもの、没収の要件を欠くもの、没収するのが相当でないものなどである。ボンドの提供による押収物の返還制度は、いまだ捜査が終了していない段階で行われるもので、押収物についての留置の必要の有無が要件となるものではない。これは、海洋汚染防止法におけるボンド制度がいわゆる航行の利益を考慮した制度であることに照らしてみると明白である。したがって、国連海洋法条約批准に伴う国内法を整備するにあたって、ボンド制度を導入するに際して、EZ漁業法及び海洋汚染防止法において担保金等の提供による釈放等の手続について規定を設ける必要があったのである。

ところで、違反者の釈放及び押収物の返還がなされる時期は、起訴前で捜査未了であってもボンドが提供されれば釈放しなければならない。したがって、釈放された違反者が指定期日に出頭し、又は押収物の再提出がなされたときに改めて捜査が再開されることになる。しかし、刑事手続の円滑な進行を担保するというのであれば、このような方式では十分でないこともあろう。

 

 

 

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