日本財団 図書館


そして、公務執行の適法性の要件としては、1]職務行為が公務員の一般的、抽象的職務権限に属すること(抽象的職務権限)。2]職務執行につき割り当て・指定・委任などのある場合に、それらの範囲内の職務執行であること(具体的職務権限)。3]職務行為の有効要件である重要な条件・方式を履んでいること、の三つとされる(23)。これが継続追跡権行使の場合は、それが主として、組織体としての巡視船艇とそれに乗り組む海上保安官によって行われるということから、1]と2]の問題は満足されていることが殆どであろうから、3]の要件が重要となる。つまりは、国連海洋法条約第111条が要求する、継続追跡権の発生要件の認定と、その実施要件である諸手続が履践されていなければ、公務執行妨害罪は成立しないということになる。その意味で、継続追跡権の要件そのものを問題にした判例は、フェニックス号事件だけであったが、すでに国連海洋法条約が我が国について発効してから2年を優に越え、1999年1月には「漁業に関する日本国と大韓民国との間の協定」が成立するという状況をみても、今後、継続追跡権行使に係わる事件は増大するであろうことは想像に難くない。国司教授も指摘するように、停船命令を、海上保安庁法等関係の法律の中に明文で規定すべきかどうかという検討も含め、今後とも、具体的な事件に適切に対処できるよう、きめ細かに検討を重ねていくことが大事であると思われる。

(17) 水上千之、継続追跡権、新海洋法制と国内法の対応第3号138頁。

(18) 国連海洋法条約関連法(1)領海法の一部を改正する法律、時の法令1531号10頁以下。

(19) 田中利幸、外国船に対する執行と国内法の整備、海洋法条約に係る海上保安法制第1号54頁。

(20) 田中利幸、海の手続法、松尾浩也先生古稀祝賀論文集下巻724頁。

(21) 山本草二、国際刑事法252─3頁。

(22) 山本草二、国際刑事法、255頁。

(23) 曽根威彦、刑法の重要問題(各論・補訂版)319頁。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION