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外としてみとめられるのは、沿岸国の属地的管轄権が及ぶ範囲内でまたは被追跡船が遠く外海に出ないうちに、すでに開始された管轄権行使の継続とみなされるからである。それは、追跡国の管轄権の実効性を確保するためのものにほかならない(21)

そして、追跡権の行使が正当に行われる限り、追跡国は、被追跡船を停止させ乗船して臨検して拿捕することができる。追跡権は、その実効的な行使を確保するために必要かつ合理的な実力を用いること許されるが、停船命令に従わない容疑船舶に対し銃撃・破壊を行うことは過剰であり違法である(アイム・アローン号事件)。このように正当とされない状況下で追跡権が行使され、領海外で停船と拿捕が行われた場合には、船舶はその損失と損害について補償を受けることができると解されている(22)。ということは、継続追跡の結果、公海において外国船上(被追跡船上)で公務を執行する公務員の公務を保護することは、継続追跡の一連の手続に、必然的に生起する可能性がある暴行・脅迫による妨害から保護することであり、それに対処するため、公務執行妨害罪あるいは傷害罪が成立するとの措置を法的に準備しておくということであろう。そして、その実益は、国内法令違反の行為を処罰するために追跡された結果としての抵抗たる暴行・脅迫も処罰されるということで、公務への抵抗の抑止についての一般予防効果だけでなく、特別予防効果も認められるとともに、主観的には、国家を背景とする正当な公務の執行が法的に保護される可能性を与えることにより、公務執行公務員の精神面に与える効果は否定できず、それは、迅速、円滑、毅然とした職務執行行為を担保することになるものと考えられる。領海及び接続水域に関する法律第3条の、「追跡に係る我が国の公務員の職務の執行及びこれを妨げる行為(罰則を含む。第5条において同じ。)を適用する。」という規定は、その意味で、条約上の権利の執行に必要な措置を、法的に規律することは、沿岸国に認められているものであることを明らかにした確認的規定としての意味をもつものと解してよいように思われる。

そして、国内法の適用として考えた場合でも、公務執行妨害罪が成立するためには、「職務行為の適法性」が担保されていなければならない。ということは、まさに「適法な継続追跡権の行使」の場合でなければならないということである。

 

 

 

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