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その意味で、この理論は海域制度としての接続水域制度の欠陥を一定の場合に補正する可能性をもち、その限りで領域外の海域に沿岸国の立法管轄を実質的に拡張する効果をもつ。注意すべきことは、この理論を接続水域に適用する試みは、国際法が接続水域について沿岸国が必要な規制(control)を行うことを特定して認めている4つの部類の法令の立法管轄をおしなべて接続水域に適用することを主張しているわけではないことである。それはあくまで犯罪行為が国内で行われたと擬制するものであり、その意味で国外犯処罰規定がない場合であっても、国内法による処罰を可能とするための国内法制上の理論である。

国際法と国内法の関係について二元論をとる国、あるいは一元論をとる国の場合でも両者の国内的効力を同列におく国内法制をもつ国家の場合は、こうした擬制によって処罰が国内的には可能であるかもしれない。しかし我が国のようにそうではない場合には、こうした擬制が国際法と整合しない国内法の効力問題が生じるから、直ちに適用可能であるとはいえない。国内法上は成り立つ擬制であっても、その効果としては領海外の水域において刑事手続きとしての処罰を目的とする船舶の拿捕、引致が行われるものであるから、外国船舶の旗国の側から見れば立法管轄の域外適用ということになり、したがって接続水域について執行管轄限定説をとる限り、そうした措置は国際法違反であると主張する余地があるからである。そうした措置が公海上で取られるのであればなおさらである。また、もしこれを海域制度に関する国際法の規律と整合させ、公海についてはこれを否定し、もっぱら接続水域についてのみ認めるという線の引きかたをする必要があるのであれば、この擬制を国際法上主張できるためには、やはり接続水域に関する執行管轄限定説に立つのでは無理であろう。かといって4つの特定法令について包括的に立法管轄の拡張を認める立法管轄拡張説は広すぎる。そこで「内国性の解釈的拡張」の理論が想定し、また国家実行としてもこの理論が実際に適用されたような事例に限って、国際法が限定的に立法管轄を接続水域に及ぼすことを認めているという前提に立つ必要が生じる。これをここでは限定的立法管轄拡張説とよぶ(28)

 

 

 

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