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この限定的立法管轄拡張説は、「内国性の解釈的拡張」の理論が想定していたような事例については、接続水域にも限定された立法管轄を沿岸国が及ぼしうるとする考え方であって、これまでの議論によって、この理論の適用を考えるべきだと主張しているわけではない。もともと解釈的拡張の理論は海域制度とは別系列のものであるから、接続水域についてのみこれを適用しようとすることに無理があり、従ってそのために接続水域について限定的立法管轄拡張説をとるというのは、ものの後先が逆転することになる。あくまで接続水域内にいる入域前の外国船舶について刑事手続きの一環として船舶の拿捕・引致の措置をとるためには、接続水域に沿岸国の立法管轄を拡張する根拠を国際法に求めなければならない。その根拠として限定的立法管轄拡張説をとることに踏み切れるかどうかが重要となるのである。
こうした立法管轄の拡張を国際法上有効に主張できるのであれば、沿岸国は特定法令の処罰規定の域外適用が明文で定められていなくとも、必要に応じて裁判手続きの中で「内国性」を解釈的に拡張することによって対応したり、これまでの裁判例の中で確定してきた実行着手時期についての判断を維持しながら、海上における取り締まりの実効を確保することも可能であろう。わが国は、排他的経済水域にある人工島・海洋構築物について、海洋法条約が沿岸国に管轄権を付与した(56条1項(b)(i))のをうけて、これらを「国内とみなす」とする立法的な措置をとることによって対応した(29)。もちろん接続水域についてこうした包括的な「内国性のみなし」規定を置くことは不可能であろう。とすれば法令違反の個別の態様に応じて、これまでの海事事件事例において裁判所が採用してきた域外適用法理を用いて、取り締まりの実効を図ることを考える余地があるのではないか(30)。とりわけ組織犯罪絡みでの営利目的による集団密航の企て、集団密航者の輸送、規制薬物の密輸などが大規模に展開されるようになり、in-comingの外国船舶に対する接続水域における措置としては、密航・密輸を防止するため接続水域外へ退去させることしかないのか、もう一度検討する余地があるように思われる。

 

1 海上保安庁『海上保安の現況』(1996年)、14頁─17頁。

2 田中利幸「密航・密輸─刑事法の観点から」、海上保安協会『新海洋法の展開と海上保安』第2号(1998年)、29頁。

 

 

 

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