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陸土との交通が行われ、関税法令あるいは出入国管理法令に違反する物品や人員の陸揚げ、上陸が行われているような場合に、母船が物理的には国内に所在しないにもかかわらず、母船の法令違反を国内犯として処罰することを正当化する理論構成である。また外国船舶と沿岸国に所在する共犯者とが共謀し、沿岸国側から派遣された小型舟艇が領海外の海上で外国船舶と接触し、洋上での積荷の積み込み・積み降し、あるいは密航者の積み替えを行うような場合には、この理論と共同謀議(conspiracy)の法理をあわせて適用することにより、外国船が国内で犯罪を行ったことを擬制することもある。この理論は、追跡権行使の事例について導入されてきたものであるが、しかし接続水域制度の発展とも密接な関係を歴史的にもってきた。先に述べたようにもともと接続水域制度と追跡権とが歴史的には沿岸国の同じ必要性に基づき同時並行的に発展したことからみて、この理論によって領域外での追跡権行使について国際法的に適法性を主張できるのであれば、無関係の外国船舶の航行利益を損なう危険が少ない場合には、領海外に立法管轄権を拡張することの正当性を主張する根拠にもなりうる面があるからである。

もっとも国際法上の追跡権の場合にはもっぱら母船と一体をなして活動する小型の舟艇がその母船に属することが要求されるのに対して、内国性の擬制はより広く、沿岸陸土の共謀者と連絡の上、沿岸国の側から派遣された舟艇と海上で会合して法令違反が行われた場合にも適用されることがある。この理論が共同謀議の法理とあわせて適用されるのは、この後者の場合である。そしてこの後者の場合にこの理論が適用される場合の特徴は、海上から陸揚げ地点までが犯罪者の意図により一本の線として繋げられていることに着目して、一連の行為を一体として扱い(unity of control)(27)、法令違反行為の内国性を擬制することにある。そしてこの擬制が成り立つ限りで沿岸国法令の立法管轄権を領海外にある外国船舶にまで拡張して適用するものである。したがってこの理論を適用すれば、理屈の上では、接続水域のみならず、公海上にある外国船舶に対しても沿岸国の法令を執行するための措置をとることができることになる。それは犯罪者が、海域の国際法制度によって図られた沿岸国の利益と外国船舶の航行の利益との調整の穴をくぐり抜けて脱法的に営利追求を行うことを阻止しようとするものである。

 

 

 

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