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第二の限界として、外国資本に依存した国内経済は、外国貿易や投資国の経済的な環境変化に大きく左右され不安定になりがちであることがあげられる。シンガポール経済の特色として、国内の労働市場、産業関係、賃金水準、労働者の職業訓練、教育水準などの主要な分野においては、外国資本にとって快適な経済環境を整えるような政策が歴史的にとられてきた。

第三の限界は、第三者が公企業の活動成果を公正に評価するシステムが無かったことである。1971年に、財務大臣が主査をつとめる幹部諮問協議会(Directorship and Consultancy Appointment Council)が設置された。幹部諮問協議会は、首相と他の大臣によって構成される調整会議(Co-ordinating Board)の監督下におかれた執行機関の一つであった。実際のところ、幹部諮問協議会だけが国の監査や議会を通すことの無い公企業に対して監査を行うことができた。また、それら公企業の経営上の重要事項については、幹部諮問協議会の承認が必要とされた。国が経営する公企業については、財務上の目標値、投資収益率、外部資金の制約、料金設定のしくみ、および特定の政策目標は明らかにされなかった。この種の公企業が抱える経営上の問題として、一般的にビジネスリスクを回避する傾向があること、そして能率的な経営による利益の追求がなおざりにされがちであることがあげられる。また、公企業に対して、本来の活動を超えた何らかの社会政策的な目標が課せられた場合には、企業活動の成果を事後的に評価することはいっそう困難になる。

 

(5) 公企業の民営化の特色

シンガポールの民営化の目的については、いくつかの特色がみられる。まず、民営化は、政府の財政難によって公共部門へ配分する資金が不足したために民間からの資金を導入するという目的で行われていない。むしろ、公企業を使った政府主導の経済成長の戦略が限界に達したために登場した考え方である。公企業が活動していた分野は、もともと民間部門では巨額の投下資本とビジネスリスクに耐えられないような新しい産業ばかりであった。しかし、国内経済の成長とともにこれらの産業が成熟し、民間企業も経営に参加できるまでに力を付けつつあることから、今後は徐々に公共部門の役割を縮小していくものと考えられる。

シンガポールの民営化の特色として、民営化が長期にわたり漸進的に行われることがあげられる。すなわち、ある公企業が市場から撤退する場合には、そこから回収した資本をバイオ産業やその他の先端技術などの新たな成長産業に再投資して育成する。公的資金の再投資は、政府の直接的なコントロール下にある3つの持ち株会社を経由して行われる。なお、国防産業はこのような民営化のプログラムに含まれていない。どの分野から公企業を撤退させるかについて、シンガポール政府はきわめて慎重に選んでいる。そのため、巨額の初期投資を必要とする産業、経済的な外部効果が大きい新規事業、ビジネスリスクが大きい先端産業や国防産業については、今後も公企業が独占すると考えられている。

 

 

 

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