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3. 香港港の整備・管理・運営体制

 

旧香港政庁、現香港特別行政区政府は中国返還が決まった1984年9月の中英共同宣言以降、経済活動に対するレッセ・フェール(積極的不干渉)政策から中立的産業政策への転換を試みていると言われてきた。レッセ・フェール政策は既存企業の民間活力を生かすように経済活動に対する関与を極力少なくするという政策であるが、それは現行秩序を追認し結果的に既存英系企業の既得権益を守るという側面をも持つものである。中立的産業政策への転換とは、既存英系企業が持つさまざまな既得権益を切り捨て新規参入者である外資系企業とより対等な形で競争させるというものである。このような政策転換が港湾管理・運営においてどのような形で現れているのか、この節ではこの点を見ることによって、香港港の管理・運営における「官民」分業あるいは「官民」関係の実態を分析することとする。

 

(1) 香港港の公的管理組織

(香港特別行政區政府海事處=Marine Department、MD)

港湾管理に関しては、香港港は、少なくとも表面上は、基本的にかつてのレッセ・フェール政策に則った体制を持っている。香港港の公的管理組織はMDであるが、MDは次の5つの部門を持っている。すなわち、1]計画策定・サービス部門、2]港湾管理部門、3]多方面部門、4]船舶部門、5]政府船舶部門である。これらの部門を見るかぎりでは、他の港湾管理者の機能とさほどの違いは見受けられない。しかし実際にはMDの業務は香港における船舶航行や港湾運送あるいは旅客輸送などの円滑性および安全性にかかわる最低限の作業に限定されている。具体的には安全な船舶航行のための水路確保(ブイの設置・補修等)、香港で航行する船舶に対する免許・登録業務、港湾内汚染の防止、防災・救援活動、政府所有船舶の設計・調達・運航・維持等である。これらの業務は民間企業からは自発的に提供されにくいサービスであり、また収益をあげにくいものである。換言するならば、MDの役割は民間企業が提供するサービスだけでは確保できない港湾全体の最低限の安全性・安定性の維持というところにある。

 

(2) 香港港の実質的運営主体=民間コンテナ・ターミナル会社

香港港の整備・運営・管理について、「官」側である香港特別行政区政府が最低限の港湾整備・管理にかかわっていることが確認できたが、これらの業務は香港港の整備・運営・管理をサポートする周辺業務に過ぎない。実際の港湾整備・運営・管理を行う主体は民間企業であるコンテナ・ターミナル・オペレーターである。次にこのコンテナ・ターミナル・オペレーターについて概括しておこう。

 

 

 

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