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例えばシンガポール港では、すでに1970年代からコンピューター・ネットワークによるターミナル・オペレーションの管理と港湾サービスの利用者に関する情報管理システムが導入されてきた。このような情報管理は、莫大な先行投資を必要とすること、ネットワークの迅速な普及のためには規制者の強制力が必要であること、情報管理そのものは収益を生むサービスではないことから国家的なプロジェクトとして推進されてきた。

今後、中核国際港湾に建設されたコンテナターミナルの効率的な利用を実現するには、コンピューター・ネットワークによる港湾サービス利用者に関する情報管理が不可欠と考えられる。これはあきらかに港湾管理者としての自治体の裁量を超えた国家的な政策課題であり、建設だけでなく建設後の管理や集貨体制まで考えた港湾投資を行うべきことを示している。

 

2) 都道府県の企業立地優遇措置の問題点

都道府県の企業立地優遇措置は、大きく二種類に分けられる。一つは地方自治体独自の措置で、もう一つは地域開発関係法に基づいて指定を受けた地域に適用される措置である。後者の例として、FAZ、リサーチコア、テクノポリス、頭脳立地、地域産業活性化がある。FAZに関する優遇措置としては、産業基盤整備基金による債務保証と、地方交付税の減収補填制度がある。

FAZ、テクノポリス、頭脳立地等の地域開発関係法に基づく優遇措置の特色は、国の関与は地域指定および税制面でのバックアップに限られ、制度の運営が地方自治体や第三セクターに委ねられていることにある。しかし、国がつくった地域振興プランに地方が手をあげ、国から受け取る補助金や地方交付税交付金を財源として企業に対する助成を行う形になっているため、地方に与えられた裁量は意外に小さく、根拠法が同じ指定地域間では優遇策の中身も同じとなるため地方の特色が出せない。地域開発関係法は、自治体間の競争を促していると言われるが、それは指定を受けるための競争であり地域振興策の内容的なユニークさを競うものではない。

ユニークな地域振興策を打ち出せない基本的な原因は、地方交付税制度による財政調整にある。地方交付税の減収補填制度は、それぞれの指定地域で特定の地方税を減免する場合(標準税率を下回る税率を適用すること)、国が地方交付税によってその自治体の減収分を補填する制度である。これら減収補填の多くは、事業税、不動産取得税、固定資産税が対象となっている。とくに事業税、および固定資産税については、最初の年度以降3年間に限り減免が認められる。したがって、地域開発関係法による税制上の優遇措置はきわめて短期的なものに限られ、しかも工場を優遇するしくみなので、広大な敷地を必要としない業種にはメリットがない。長期的な展望のない政策のもとでは、自治体も地域的な産業政策について消極的にならざるを得ない。産業基盤整備に力を入れる一方で、それらの施設を利用する地域の産業を育てる努力をしなければ、自治体の地域振興は効果を発揮し得ない。産業基盤としての港湾整備についても、自治体には管理者としての役割が課される一方で、政策の内容を決める実質的な裁量は無きに等しい。

 

 

 

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