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3] 地域経営の一部としての港湾経営の明確な位置づけの必要性

中小荷主対応型港湾物流サービスおよび貨物創出型港湾物流システムは、どちらもそれぞれの地方自治体の政策に関連するものである。港湾整備・運営に関する政策的なポイントは地域全体の発展と安定化の中で港湾整備・運営はどうあるべきかという点にある。港湾整備については次に述べるとして、港湾運営に関しては、行政側は地元(および遠隔地)のサービス重視型貨物を集めている(あるいはこれから集める)民間企業のサポートをどれだけできるかにある。もともとLCL貨物は量的に少ないうえに手間と工夫がかかる貨物である。したがって行政側がこれらの障害を上回るメリットあるいはシステムを提示していくこと、そしてそのことが地元経済への産業集積と関連させていくことが必要である。

4] 既存公共サービスにかかわる諸問題

(a) 過剰設備から生じる赤字の補填問題

赤字化しているコンテナ港湾の整備を進めることによって、当該港湾の管理者である地方自治体は、クレーン使用料の値上げか、さもなければ赤字分の税金補填のどちらかを選択しなければならない。前者であれば、平均的な日本のコンテナ港湾よりもクレーン使用料が高ければ、当然、コンテナ貨物の集荷に際してコスト競争力を低下させることになるため、集荷量の停滞・減少をまねきかねない。そしてさらなる赤字幅の拡大につながることになる。後者の場合は当該自治体は補填分だけ本来可能であった他の公共財・サービスの提供ができなくなり、公共サービス低下の可能性が懸念される。このようにコンテナ港湾への過剰投資は地域経営に赤字と公共サービスの低下という深刻な問題をもたらすものである。

さらに利用者と税負担者の乖離の発生がある。コンテナ港湾の直接の利用者は当該港湾周辺の荷主および港湾運送業者や当該港湾に船舶を配船する船社であり、税負担者は当該港湾を管理している地方自治体の住民や企業である。そうであるならば、地方港に典型的に見られるように、コンテナ港湾が大荷主専用港湾化するということは、大荷主に対する一種の補助金交付であり、地元住民・企業に対する課税強化である。もしも地元貨物、とりわけ中小企業の貨物の取扱いが極端に少ないならば、その港湾の管理者は政策の不公平性を指摘されることになる。

(b) 各種「規制緩和」から生じる諸問題

一方で過剰設備を抱えつつさらなる新規設備の拡張を行いながら、他方で各種港湾料金の部分的引下げや「規制緩和」を行っているのが、現在の港湾行政の一般的なあり方である。しかしこれらの施策を行ったとしても、貨物量の増加の見込みがなく、また大幅なコスト削減にはつながりにくいためあまり効果は期待できないのが実情である。抜本的なコスト削減を考えるならば、既存設備の大胆なスクラップをしたうえで新規設備を建設するか、新規投資を凍結するかのどちらかをしなければならない。同じ金額を使うのならば、港頭地区の用地賃貸料を大幅に値下げすることによって内陸部インランド・デポに対するコスト競争力をつけるべきである。

また強制水先制度の緩和あるいは港湾運送事業への参入の自由化などに見られる「規制緩和」についても、もともと当該港湾が持っている競争力を喪失させない形での「規制緩和」が必要である。具体的な方向性を持たない「規制緩和」論議はしばしば従来から存在する競争力を掘り崩す危険性を持っていることは十分留意されるべきである。

とりわけ神戸港等の大港湾の場合、前述したように、港頭地区における作業水準の高さが競争力の源泉になっているため、この競争力の源泉を喪失させない形での規制緩和が必要とされる。

 

《参考文献》

Tsumori, Takayuki(1988)"The Position of Kitakyushu Port in the Asian Inter-Port System", Proceeding in SEAPOL Kitakyushu International Conference.

津守貴之[1997]『東アジア物流体制と日本経済─港湾機能の再配置と地方圏「国際化」』御茶の水書房

 

 

 

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