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しかしこの程度の差は、許容される範囲内にあろう。むしろ、大阪港の対アジア輸出物流行動関数の推定結果に見られる神戸港のケースとは異なった特徴は、とりわけマレーシアを除くASEAN地域(フィリピン・タイ・インドネシア)ヘの輸出物流行動とNIESと中国地域に対する輸出物流行動の間に差が認められるうえに、ASEAN地域の作用に多様性が見られることである。

例えば日本の直接投資弾力性は、対フィリピン物流においては、非弾力的なNIESなどの一般レベルと比較して4倍近い正の弾力的な値をとる反面、タイやインドネシアでは一般レベルの3〜4倍の負の値を示している。この弾力性の符号は本来は正である。ところがタイやインドネシアでは負であるから、ここでは、タイやインドネシアへの日本の直接投資が増加しても、これら2国に対する大阪港の輸出物流は減少するのである。このような非合理な負の因果関係は神戸港のケースには見られなかった。

またアジア地域のGDP弾力性(本来の符号は正)は、タイにおいて最大の正の弾力的な値を示し、、それは非弾力的なNIESのレベルの約2倍にも上っているのに対し、逆にインドネシアやフィリピンの弾性値の符号は負で、一般レベルの1.5〜2倍の弾力的作用をもっている。

為替相場比率の作用についても、同様な事情を指摘できる。フィリピンの為替相場比率弾性値は合理的な正の符号を示すものの、その値は一般レベルの約20倍にも達している。逆にインドネシアでは一般レベルの70倍もの負の弾性値が現れている。

神戸港の場合も、確かにASEAN地域向け物流には、特定の決定因が他の地域とは異なった作用を示していたし、タイについては、3つの決定因弾力性が特異な値を示していた。しかしその場合でも、弾力性が符号条件を満たさないことはなかった。ところが大阪港のケースでは、特異な弾性値をとるうえに、符号条件を満足しないケースが多く含まれている。とりわけ上に見た3つの決定因のすべてについて、合理的な符号条件を満たさなかったインドネシアのケースは、大阪港の対ASEAN物流が神戸港の市場支配力によって抑圧されている典型的状況を示すものであろう。すなわち隣接した大阪港と神戸港の競争行動は、結果としてこのような形でASEAN地域における競争の弊害をもたらしている。その中で、フィリピンへの輸出物流は日本の直接投資と円・ペソの為替相場比率のもつ抜群の機能に、またタイヘの輸出物流はタイのGDP弾力性の作用に大きく依存している。

2] 港湾サービス機能の特徴と神戸港との競争構造

大阪港の港湾サービス機能をコンテナ化率でとらえた推定結果に注目すれば、コンテナ化率の輸出物流弾力性の基準値は0.060で、しかもこの係数のt値は10%レベルで有意である。これを神戸港のコンテナ化率の輸出物流弾力性の基準値である0.445、その係数のt値の1%水準レベルでの有意性と比較すれば、大阪港の港湾サービス機能が神戸港に大きく劣っていることは明らかである。しかも対インドネシア輸出物流では、この港湾サービス機能もまた非合理な負の値をもち、しかもその状況はフィリピン航路にも及んでいる。

それにも関わらず、神戸港のコンテナ貨物集中度弾力性の基準値を見ると、神戸港のコンテナ貨物の輸出集中度が1%減少すれば、大阪港の対アジア輸出物流量は逆に2.217%増加することが分かる。

 

 

 

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