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例えていえば、北米からのヨーロッパ大陸へのゲートウェーにあたるロッテルダムなどの諸港は太平洋航路におけるアメリカ西海岸にあたり、これに対してヨーロッパ大陸の地中海沿岸部はアメリカ東海岸に当たると見ている。したがってヨーロッパ大陸で展開される製造業のロジスティクス戦略に対応した複合輸送戦略には、なお大きな改善の余地がある。

このような大西洋市場の産業組織は、幾つかの点で先に見たヨーロッパ航路市場の産業組織に類似している。それは、いずれの市場でも、集中度が運賃をプラスの方向に変化させ、競争を促進する健全な産業組織が継続的に機能している点、また需給比率や複合輸送戦略が運賃のマイナス要因として機能している状況に現れている。しかし、これらの要因の運賃弾力性は、ヨーロッパ航路市場では極めて弾力的レベルにあるのに対し、大西洋市場ではその逆に極めて非弾力的レベルにある点で、まさに対称的である。その結果、ヨーロッパ航路市場では、運賃の大きな変動(具体的にはその大幅な下落)が発生しているのに対し、大西洋市場では、東航市場領域で運賃上昇が、一方西航市場領域ではそのほぼ安定的推移が見られている。

これは、大西洋市場が現在の産業組織を1984年頃に構築して以来、この組織を継続的に発展させ健全に育成してきた結果である。さらにそこには、競争を促進する要素も付加されている。これに対し、ヨーロッパ航路市場では、かつての閉鎖型同盟市場からの変身を果たしてはいるが、まだ外部の環境変化を受け止めて、その衝撃を緩衝するだけの成長を遂げていない。それは、コンテナ船業から見て、極めて安定性を欠いた不健全な組織に写ってもやむをえないであろう。

 

(4) 三大市場の特徴と展望

以上の考察のキーとなるポイントは、図表I-2-9にまとめたとおりである。この結果から、太平洋の東航市場が世界の6つのコンテナ船航路市場の中でも、極めて特異な存在であることが理解される。コンテスタブル市場を支えたのは、一つはアジア経済の無限の成長神話が浸透する中で、市場残留企業によって、撤退企業のサンクコストが継続的に吸収され、実質的にサンクコストがゼロの状態が継続してきたからである。このようなアジア経済を取り巻く情勢が、現在大きく変化した結果、海運業の期待も急速に変化しているものと思われる。また、本章における1996年までの太平洋東航市場の考察結果(本節(1)、図表I-2-3)においても、この市場がコンテスタブル状況から脱却する兆しが現れていた。したがって近い将来において、この市場における大きな行動変化が起こる可能性がある。

三大市場の中で最も健全な産業組織は大西洋市場である。ヨーロッパ航路市場もいずれ成熟して大西洋市場の組織タイプに移行するであろう。現在のヨーロッパ航路市場における運賃決定因の作用は、上下のぶれが極めて大きな弾力的作用に限定されている。いずれこの作用が穏やかになり、大西洋市場におけるような非弾力的レベルに収まるようになる時が来るであろう。

 

 

 

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