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3. 三大コンテナ航路市場の構造環境と行動の差異

 

(1) 太平洋市場の構造と行動─行動相違型ラグ反応モデル─

1) 行動相違型ラグ反応モデル

太平洋市場についての2つの市場モデルの実証結果は、図表I-2-3に掲げるとおりである。4つの推定結果を決定係数のレベルで比較すると、最大で10%近い差が現れている。この推定結果に従うと、太平洋市場では行動相違型モデルの方が、構造相違型モデルを上回る説明力をもっている。

したがって、アジアからアメリカに向かう東航市場とその逆方向の西航市場の構造には、基本的には何らの相違もないと見做すことができよう。異なっているのは、往復2市場におけるコンテナ船業の市場行動なのである。その市場行動が、環境の変化に即応するのか、あるいは遅れをともなって反応するのかといえば、相対的な判断ではあるが、太平洋市場ではラグ反応モデルの方が即応型モデルよりも優れている。

 

2) 東航市場の脆弱な運賃決定フレームワーク

ところで、太平洋航路における運賃決定が、1984年のアメリカ海運法の発効を契機として混乱状態に陥ったという事実に関わらず、考察期間が比較的長期に及ぶ場合には、先に示したようなモデルの符号条件を一般に満足して支えるような、決定因の係数への信頼度が高いのが普通であった。ところが、最も説明力のある図表I-2-3の行動相違型ラグ反応モデルにおいてさえも、アジアからアメリカに向かう東航市場では、すべての決定因の係数の信頼度が低く、そのt値が5%水準では有意ではない状況にある。もっとも、私はこのような結果を、このモデルが東航市場の運賃決定においてもつ意義を完全に否定するものであると悲観的にとらえるという立場には立たない。少なくとも、船型の大型化、需給比率、集中度、複合輸送比率の4要因の係数については、t値が1以上の値をもっており、このレベルは予測作業に使われるモデルにおいては、許容される最低限のものであるからである。

 

3) 西航市場における戦略要因の重要性

このように、東航市場の運賃決定のフレームワークが脆弱になっているのに対して、西航市場においては、集中度と複合輸送比率という戦略要因に関して信頼度の高い結果(t値が1%水準で有意)を示している。これは、東航市場の競争状態が、西航市場と比較して激烈なレベルにある証拠である。もっとも、西航市場においても、運航船型の大型化と需給比率の機能については、東航市場と全く同様に不安定である。その意味で西航市場には、正常な寡占的産業組織が成立している。

 

 

 

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