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これに対して、往航市場と復航市場の構造は同じであるが、そこで展開される市場行動に差のあるケースを考える事ができる。ほぼ同一の企業の船隊によって構成されている両市場の構造がそれぞれ異なると見るには、逆に無理があり、むしろ同一の構造的環境の下で最適の成果を得るために、市場行動を柔軟に変化しているのではないか、というのがその論拠である。このような市場を「行動相違型市場」と呼ぼう。  

これらの2つのタイプの市場の折衷型、すなわち往航市場と復航市場に構造も行動も異なるタイプを設定することは、ありうべき選択肢ではある。その場合には、両市場を集計せずに分離して考察したと同じ結果がえられる。しかし本章では、往復2市場には、何等かの関係があるものと仮定して、折衷型市場仮説は採用しない。

 

(2) 運賃決定モデルの意味             

本章で採用するコンテナ船運賃の決定モデルは、運賃が、固定費と可変費をカバーするというフルコスト原則に、市場の需給関係(景気状態)、運航企業の市場支配力(集中度で測る水平的統合あるいは連携の程度)、複合輸送サービスの採用可能性(サービス生産の垂直的統合あるいは連携の程度)、運航船型の大型化(技術革新による規模の経済性)の諸要因を組み込んで構築される。すなわち、(1)運賃=f(造船費用;燃料費;船型の大型化;需給比率;集中度;複合輸送比率)であり、その決定因を、図表I-2-2のように纏めて見れば、それは、コスト要因をベースに、技術進歩要因、市場要因及び2種類の戦略要因の、合計4つの要因が作用している。

 

図表I-2-2 運賃決定関数の作用と産業組織タイプの判定

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このような運賃決定関数を用いて、考察市場の構造が正常な産業組織をもつのか、コンテスタブルな産業組織なのか、あるいは、なんらかの不合理性を帯びた組織なのかについて判定できる。それは、市場における企業の水平的統合あるいは連携の程度が市場運賃に対してどのように作用しているかによって分かる。それに加えて、この問題は、コンテナ船業の世界的なアライアンスやグループ形成によって引き起こされた集中度変化の戦略が、どのような効果をもたらすものなのか、を問うているのである。

 

 

 

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