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近年、国内の荷主が注目しているのは、わが国の港湾と競合しているアジア諸国の拠点港湾の料金水準・サービス水準である。わが国における港湾関連のコストとサービス水準を競争港の水準に近づけるための目標値が掲げられているものの、港湾運送業における規制緩和が遅く国際競争のスピードには遠く及ばない。港湾物流の効率化を促すために不可欠となるのが、港湾の所有や港湾管理制度の見直しである。国際的なトレンドとして、港湾管理の制度は多様化している。今後の港湾民営化について、公共部門と民間部門の役割、民営化実行の具体案を論じる時期が来ている。

今後、民間資本が社会資本の建設・運営に関わる際に問題化するのが、港湾管理における公共部門と民間部門の役割分担である。民間企業が港湾施設を建設し、運営を行うケースが増加している。その管理を公共部門が行う場合でも、管理組織の議決・執行のルール、財政的な自律性を事前に解決しておかなければ効率的な港湾経営が難しいことを実例とともに論じる。

第II部海外調査編は、アジア拠点港湾を訪問し、物流サービスに関る港湾物流業者、船社、大手荷主、港湾管理者および政策当局にインタビュー調査し、拠点港湾の整備・運営・利用に関する実態をまとめた。韓国では、公団組織を設立し、民間資金を導入しながらコンテナターミナル建設を進める仕組みと、コンテナ・ターミナル間で激化する競争について報告する。香港では、中国本土の拠点港湾との競争、船社間のグローバル・アライアンスに応じたコンテナターミナルの構築が急速に進んでいる。とくに、ターミナルの整備・管理・運営の仕組みに民間資本が基本計画から関与している実態は興味深い。シンガポールでは、旧規制者が規制主体と事業主体の二つの組織に改組された。ターミナル・オペレーターが、旧規制者時代のネームバリューを活かしながら世界規模で拠点を拡張している実態を報告する。台湾でも、荷主、フォワーダー、船社の物流ニーズ高度化にあわせた港湾政策が展開され、港湾運送事業の民営化が進められている。政治的課題を抱えながら進展する中台直航化は、アジア物流の動きに影響するものとして注目される。

第III部は、第I部の現状分析の内容を念頭におきつつ、港湾管理者・船社・荷主によるゲーム的な状況をモデル化し、船社の航路選択をわが国の拠点港湾ネットワーク整備に反映させた物流システム効率化の可能性について検証した。阪神港、京浜港の港湾料率や荷役料率の引き下げが東アジア物流市場に与える影響についてシミュレーション分析を行った結果、阪神港への船社の寄港集中が生じ、整備バースの稼働率を大幅に向上するという意味で効率化を促すことが検証された。

阪神圏の物流サービス効率化と地域経済活性化を促すために、ぜひこれらの研究成果を政策決定に活かして頂きたい。

 

平成11年3月

神戸大学経営学部

宮下 國生

 

 

 

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