(FIG.-15)
もう一回、このグルーンランドの記録に戻る事にします。先程もお話しました様に、最後の1万年を見ますと、非常に酸素同位体の変動が少なく安定しています。ところが、今から12万年前の1つ前の間氷期ですね、Eemian(イーミアン)と呼ばれますけれども、(赤で示してあります)、Eemian(イーミアン)には、非常に変動の激しい様子が見られた訳です。これに関しては、現在では恐らく基盤近くの氷が流動する時の断層か何かの影響で記録が乱されているのだと言われています。これについては、次にノースグリップという所でこの部分を確認する作業が行われているはずですけれども、
少なくともですね、
(FIG.-16)
各時代別に酸素同位体比の度分布を見ますと、後氷期は現在の安定したモードーつだけにピークが有る訳ですが、一つ前の間氷期には3つのモードがあって、その内の1つは現在よりも一段暖かいモードである。これを非常にゆるぎない事実と言っていいかどうか分からないですけれど、可能性としては現在よりも一段暖かい気候モードが存在するかもしれない訳です。
(FIG.‐17)
Eemian(イーミアン)、今より1つ前の間氷期に現在よりも気候が暖かかったらしいという証拠が幾つかあります。図はドイツの湖の堆積物の花粉の記録ですが、そこにEemian(イーミアン)と書いてありますが、これ全体が一つ前の間氷期を示します。大体一万年チョットありますけれども、そうするとその中でですね、その前期の2000年の部分は、その花粉から推定される気温が後氷期よりも暖かい。そう見えます。
(FIG.-18)
それから海水準についても現在よりも6m高い時期があったんじゃないかと言われています。これも、勿論議論されていてまだ決着が完全についている訳じゃありません。けれども、例えばバハマの海岸地形で、海岸の波で浸食された地形が現在よりも6m高い所にあるわけです。それが、どうも最終間氷期に形成されたのではないかと言われている、そういうことで確実とまだ言えないかも知れませんけれども、最終間氷期に現在よりも一段暖かい気候モードがあった可能性があり、その時に海水準が6m位高かった可能性がある、で海水準を6m高くするためには、どこかの大陸氷床を溶かさなければいけない訳ですが、その一番の候補として言われているのが西南極氷床です。
(FIG.-19)
図は南極の氷を全部取り去った後の基盤の地形を示しています。これは要するに海よりも上の部分、陸の部分を示していますが、そうしますと、西南極というのは実は殆どが基盤が海水準より下にあるわけです。と言うことで西南極氷床は非常に不安定であるということが言われてます。
この様に最終間氷期に西南極氷床が崩壊した可能性が議論されている訳ですが、これも勿論、賛成反対両方あります。その中で最近、氷床掘削をして氷床の下側にある堆積物を取り出して調べるという研究が行われました。
(FIG.-20)
その結果何が分かったかというと、西南極氷床の下にある堆積物から第4紀の海に住む珪藻の化石が見つかった、もし、その化石が元々そこに在ったものだったら第4紀のある時期に西南極は氷に覆われない海であったということを示します。その珪藻だけでは、どこかから飛んできたとか、色々な反論があったんですが、続いてその堆積物中のベリリウム10(10Be)という、放射性元素を調べました。そうすると、10Beというのは、大気の上層で宇宙線によって形成される放射性元素で半滅期が150万年位いうモノですけれども、大気の上層部で形成されたらすぐに雨や何かと一緒に落ちてきます。ですから、西南極氷床の下の堆積物に10Beが降って居ると、上に氷の無い時期があった可能性を示している訳です。さらに珪藻を含むサンプルと10Beを含むサンプルというのは良く一致しています。この事から西南極氷床は過去数10万年の間のどこかで、少なくとも崩壊していたと言うことが強く言われるようになって来ました。